昨シーズン限りでチームの大黒柱・黒田博樹が引退。先発陣の弱体化が懸念される広島。
昨シーズンの黒田は24試合に登板して10勝8敗、防御率3.09の好成績を挙げ、先発3本柱の一角を担った。投球回も151回2/3と規定投球回数を達成している。
また成績のみならず、メジャー実績も十分なベテランは若手主体の広島に置いて精神的な支柱でもあった。黒田は目に見える成績以上のものをチームにもたらしていた。この穴を埋めるのは容易ではないが、今こそ若手が奮起するしかない。
そこでキーマンとして挙げたいのが2013年ドラフト2位の九里亜蓮だ。大卒(亜細亜大)の即戦力投手と期待されたが、ここまでの勝ち星は通算4勝と少し寂しい。しかし、今シーズンはキャンプから好調を維持し、オープン戦では2試合を無失点。広島のオープン戦MVPにも選ばれている。
この好調の背景には、黒田からの助言があったという。
「お前は完璧を求め過ぎる。完璧を求め過ぎず、しっかりと仕事をすればいい」
これまでは無失点に抑えることに注力し過ぎる投球が目立ったが、黒田の助言でいい具合に力が抜けたようだ。さらに、エースのジョンソンを参考にフォームを微調整。足の位置を変えることでバランスがよくなり安定感につながっている。
昨シーズンは先発、中継ぎと、様々な場面で投げ経験を積んだ大器が今シーズンは先発として勝負に挑む。
奇しくも、九里に助言した黒田も2、3年目は伸び悩み、ローテーションに定着したのは4年目からだった。そして久里と同じくドラフト2位の大卒投手(専修大)。久里が黒田のような成長曲線を描いて覚醒することを期待したい。
野手に目を向ければ、40歳を迎える新井貴浩が今年も4番として打線を牽引することが濃厚だ。オープン戦では打率.214と振るわなかったものの、体のキレは上々で仕上がりは万全。昨シーズンに続く活躍が期待される。
しかし、大ベテランに4番を任せきりならば、広島の未来は危うい。若き和製大砲の出現が大いに待たれる。
そこで台頭を期待したいのは、昨シーズン大ブレイクした鈴木誠也の同期で5年目の美間優槻だ。鈴木に大きく水を開けられた感は否めないが、その鈴木がWBC参戦中に1軍に帯同。本塁打を放つなど確かな爪痕を残した。美間の和製大砲としての飛躍を信じたい。
最後はチームの扇の要・捕手に注目したい。昨シーズンは石原慶幸が正捕手に座り、安定した守備とリードでリーグ優勝に大いに貢献した。今シーズンも正捕手としてホームベースを守るだろう。
しかし、今年で38歳を迎える石原に頼り切るのは、打線の中核として新井に頼り切るのと同様に、広島の未来に暗雲が立ち込める。
「有能な捕手なくして強いチームはありえない」と言われるなか、粘り強く今日の地位を築いた石原。その存在感は非常に大きい。しかし、大きいが故に、石原を脅かす若手捕手の登場はチームの未来を考える上で必須だ。
そのポスト石原の1番手は、近年、石原と競ってきた會澤翼を置いてほかにいない。會澤は打撃で頭角を現し、待望の「打てる捕手」誕生と期待されるも、ここ2年は守備面で苦戦。やや伸び悩んでいる。
2015年は會澤が70試合、石原が73試合とスタメン出場を分け合ったが、昨シーズンは會澤が50試合、石原が83試合と差をつけられてしまった。その原因は守備力の差に尽きる。
2015年のシーズン前半は、打撃で勝る會澤が正捕手の座をつかんだに見えた。しかし捕逸が多く、守備面での不安を露呈。そこで、守備力に勝り、配球面でも一日の長がある石原がマスクを被ると、投手陣の成績が飛躍的に上がった。會澤は控えに回ることが多くなり、昨シーズンは不動の2番手におさまってしまった。
しかし、會澤の打撃は魅力だ。昨シーズンも200打席未満ながら7本塁打を放つなど、捕手のなかでは抜群の長打力を誇る。その長所を生かすためにも、今シーズンは守備を磨き、出場機会を増やすことが求められる。
オープン戦では、4勝11敗2分の11位とまったくいいところがなかった広島。不安を払拭し連覇を成し遂げるためには、ベテランを脅かす若い力の台頭が必要不可欠だ。
文=井上智博(いのうえ・ともひろ)