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開幕ロースターから見る野球の国際化〈前編〉NPBの外国人選手、中南米出身が最大勢力に!

ジャパニーズドリームを目指すようになった欧州選手

 この3月に行われた日欧野球に、野球の国際化を感じたファンは多いはずだ。「ひょっとしたら、試合にならないのでは?」という一部の心配をよそに、そのメンバーの多くが、ラテンアメリカにルーツをもつ「欧州代表」は、侍ジャパン相手に試合を優勢に進め、1勝1敗という健闘を果たした。

 あまり知られてはいないが、現地のアマチュアリーグには、一部有給でクラブに雇われている「助っ人」選手がいて、プレーレベルの向上に貢献している。そういう彼らの中から、プロアスリートとしてより高い評価、つまり多くの報酬を求めて海を渡る者がいるのは当然であり、また、国際化戦略をいち早く打ち出したMLBの選手獲得網は確実に欧州に広がっている。

 現実には、欧州からMLBに挑戦した選手の多くは、志半ばにして母国に戻ることが多い。MLBだけでなく米独立リーグにおいても、その選手層の厚さは、野球経験の浅い彼らをはねのけてしまう。ポテンシャルの面でも、カリブ勢に軍配が上がる。期待されて海を渡るものの、結果が出なければ見限られてしまう。欧州に代表される「野球不毛の地」の出身者が、メジャーレベルの指導者やスカウトに目をかけられることは少ない。

 そういう状況の中、彼らの目は日本に向いている。アメリカ人やカリブ勢にとって小うるさい「教え魔」のコーチの指導も、「野球不毛の地」出身の選手にとっては、母国に帰ってからのセカンドキャリアを考えるとありがたい知識であるし、なんといっても、独立リーグを含めれば、日本球界における「野球で飯が食える」場の数と雇用の安定は、数カ月のシーズンを通してロースターの半分が入れ替わることも珍しくないアメリカ野球に比べて、外国人選手にとって目指すべき地の1つとなりつつある。

北米の選手よりも中南米の選手が上回る

 そのような中、ふた昔前まではアメリカ人と相場が決まっていた日本のプロ野球の外国人選手の出身地にも大きな変化が起こっている。その状況を、今年の4月時点と、『ベースボール労働移民―メジャーリーグから「野球不毛の地」まで―』(河出書房新社,2013)に掲載されている、7年前、2008年のロースターとの比較から見てみたい。



 今シーズンのNPBのロースター入りした選手の総数は、880人(育成選手含む)。その中で約9%にあたる78人が外国出身者だ。この内、野球の本場であるアメリカ人は、意外なことに3分の1ちょっと。7年前は71人中、約半数の35人をアメリカ人が占めていたことを考えると、外国人選手の多国籍化が進んでいることがよくわかる。実際、外国人選手の出身地は13の国と地域に及ぶ。

 地域別に見てみると、カナダを含むアングロアメリカを、バレンティン(ヤクルト)の出身地であるオランダ領キュラソーを含むラテンアメリカ勢が上回っている。その数、実に38人。7年前の18人から倍増している。

 この中で、特に目立つのはキューバ出身選手の増加だ。2008年には日本球界にはいなかったキューバ出身選手は、現在、先日退団したグリエル(DeNA)を除いても8人が在籍している。昨年から始まったキューバ政府を仲介役としたレンタル制度により来日した4人のほか、アメリカ経由の亡命者4人が日本を稼ぎ場所として選んでいるのだ。

 ドミニカ勢の14人は相変わらずだが、ラテン勢の中でもドミニカ勢は評価が激しく、あるスカウト経験者は、そのメンタルの不安定さを嘆いていた。集中力にムラがあるのは、ドミニカ人に限らず、ラテン系の特徴でもあるのだが、彼らの獲得については、球団の色が出ているように思う。

 そもそも、MLBにおいてドミニカからの選手の流れが爆発的に増加したのは、選手獲得に難渋していたトロント・ブルージェイズなどの寒冷地の球団、あるいはカンザスシティ・ロイヤルズなどのスモールマーケット球団が、安くてポテンシャルのある選手を求めて、現地にアカデミーを創設したのが始まりだ。

 日本においても、どちらかと言えば、資金力に乏しい地方球団がドミニカをはじめとするラテンアメリカに選手獲得網を広げている。「紳士たれ」の巨人にドミニカ人がいない一方、現地にアカデミーをもつ広島は3人、毎年、ウインターリーグに若手選手を派遣している中日には4人在籍している。ヤクルトが、本社の現地法人のあるブラジルから日系人選手を獲得するのも同じ流れの上にあるのだろう。

▲ドミニカ共和国のカープアカデミー出身のロサリオ

 ブラジルと言えば、近年では日本の学校に留学して「日本人選手」扱いで入団するケースも増えている。同じくヤクルトの金伏ウーゴや、昨年のドラフトで楽天からドラフト4位指名を受け、入団したルシアノ・フェルナンドがそうだ。彼らと同じ白鴎大出身の先駆者ともいえるラファエル・フェルナンデスは、一昨年のヤクルト退団後、ブラジルに帰国していたが、今年は独立リーグ・四国アイランドリーグプラスの愛媛マンダリンパイレーツで日本球界に復帰している。

台湾出身選手の減少の理由とは

 冒頭の日欧野球に象徴されるように、欧州勢の日本球界挑戦も近年の新しい動きだ。7年前には日本球界に欧州出身の選手は1人もいなかったが、今年はイタリア生まれのマエストリ(オリックス)、オランダ生まれのバンデンハーグ(ソフトバンク)が主力として活躍を期待されている。また、こちらは戦力としての「助っ人」というよりは、日本野球への挑戦といった色彩が強いが、四国リーグにはスペイン人選手が在籍している。

 アジア勢に目を移してみよう。2008年には2人だった韓国勢は、4人と増加している。この内、日本の高校・大学を経て、独立リーグからソフトバンク入りした金無英(キム・ムヨン)はブラジル勢と同じく外国人枠から外れている。台湾人の陽岱鋼(ヨウ・ダイカン)も同様のルートで、日本人選手扱いでプレーしているが、メジャーリーグという経済的に魅力のある働き場があるアメリカ、カナダ以外の国々からは、今後、このようなドラフト対象になるべく早期に来日する「ベースボール労働移民」は増加していくだろう。

▲福岡第一高から高校生ドラフト1巡目で指名を受けた陽岱鋼

 そんな台湾勢に目を転じてみると、7年前の10人から4人に大きくその数を減らしている。以前、現役時代はロッテで活躍し、当時、台湾のラミゴ・モンキーズで指導していた荘勝雄コーチ(現BCリーグ・福井ミラクルエレファンツ、コーチ)から聞いた話では、現在、台湾の有望アマチュア選手は、早々にメジャーにスカウトされて、自国のプロを経由することなく、アメリカ球界に挑戦する傾向にある、と嘆いていた。そんな彼らのメジャー志向は、日本球界への挑戦も減らしているようだ。

次回は、BCリーグに在籍する選手、欧州以上の「野球発展途上国」から日本にやってきた選手について紹介やその考察をしていきます。


■ライター・プロフィール
阿佐智(あさ・さとし)/1970年生まれ。世界放浪と野球観戦を生業とするライター。「週刊ベースボール」、「読む野球」、「スポーツナビ」などに寄稿。野球記事以外の仕事も希望しているが、なぜかお声がかからない。一発当てようと、現在出版のあてのない新刊を執筆中。ブログ「阿佐智のアサスポ・ワールドベースボール」(http://www.plus-blog.sportsnavi.com/gr009041)

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