今季、楽天がマークした56盗塁は12球団でワーストの数字だった。昨シーズンの66.3%から60.2%に下がった盗塁成功率も同じくワースト。盗塁企図数こそ9位に踏みとどまったものの、パ・リーグでは最少。盗塁を決めた走者がその後にホームを踏んだ生還数も、40回(2015年)から16回(2016年)と半減した。
また、筆者の調査によると、相手投手の牽制球は昨年比で少なくとも240球以上減っている。足でチャンスを演出することも、相手バッテリーに揺さぶりをかけることもできなかった。
しかし、楽天には盗塁面でV字回復へのカギを握る頼もしいキーパーソンが3人いる。
1人目は、現役時代に足のスペシャリストとして活躍し、出場した476試合の40%が代走出場だった森山周コーチ(1軍外野守備走塁)。昨年引退し、今年から2軍の外野守備走塁コーチに就任。今秋から1軍コーチに昇格した。
2人目は西武時代に3年連続盗塁王に輝き、日米通算464盗塁を誇る松井稼頭央。そして最後は、2012年の盗塁王・聖澤諒だ。
経験豊富な3人衆が、発展途上の若鷲選手に盗塁の意識と技術を惜しみなく伝授し、無形の力を結集すれば未来は見えてくる。
森山コーチへの期待は、足のスペシャリストとして生きた現役生活で培った心得を若手に説くことだ。2015年は、現役だった森山コーチ自身が代走で10盗塁を決める活躍を見せた(チーム全体での代走からの盗塁数は11)。終盤の要所でほしい1点を、足を絡めてもぎ取ることができた。
しかし、今シーズンは代走からの盗塁数は2まで激減。指揮官の采配にも影響を与えた。
松井稼へ期待したいことは、「精度の高さ」の伝承だ。松井が誇るNPB通算盗塁成功率82.1%は、通算300盗塁以上を記録した戦後の選手のなかでは、南海・広瀬叔功(896盗塁、成功率82.9%)に次ぐ歴代2位の数字になる。
一般的に足に衰えが見られても不思議ではない30代半ば過ぎで楽天に移籍した松井稼だが、移籍後は逆に86.2%と成功率を上げている。どのようにして高い成功率を維持し続けているのか。その秘伝の技を受け継ぐ若手の出現が待ち望まれる。
そして、聖澤に期待したい役割は先生役になること。NPB史上74人目の通算200盗塁まで残り6盗塁に迫る聖澤には、盗塁の秘訣もさることながら、相手投手のクセを研究することの大切さ、観察眼の重要性を教えてほしい。
すでに9月17日、聖澤先生による「学生オコエ瑠偉君」へのSNS公開授業が実施された。ファンが見守るなか、左投手の牽制球に関するQ&AがInstagramで交わされ、話題を呼んだ。
3人合わせて604盗塁を記録した先達3人衆の経験が、次世代の犬鷲戦士へ無事継承されれば、来季は足を生かした場面も多くなるはずだ。
文=柴川友次
信州在住。郷里の英雄・真田幸村の赤備えがクリムゾンレッドに見える、楽天応援の野球ブロガー。各種記録や指標等で楽天の魅力や特徴、現在地を定点観測するブログを2009年から運営の傍ら、有料メルマガやネットメディアにも寄稿。