「この合宿では一番よかったですね」。全日本大学野球連盟監督会からなる選考委員たちと、NPBスカウトたちの評価は「当然のごとく」一致した。そんな合宿ナンバーワン評価を得た右腕とは……。2日目の紅白戦、白組の3番手として登板した島内颯太郎(九州共立大3年・右投右打)だ。
144キロから147キロの球速帯を常時マークするストレートと、「本来はフォークを主に使っているが、左打者に対して制球がよかったので使った」というチェンジアップを次々と低めに集めての3回無安打6奪三振。
島内は、左腕・久保祐真(3年)の故障により、この秋の福岡六大学リーグ戦でエース格にのし上がり、防御率1位(0.64)をマーク。最優秀選手賞も獲得した。続く九州3連盟代表決定戦も制し、明治神宮大会では優勝した日本体育大戦に先発し、5回1失点(自責0)に封じている。この躍進の軌跡を、松山の地でも存分に示した。
「周りのレベルが高いので精一杯やるだけ」と本人は登板後、極めて殊勝なコメントを残したが、フィールディング練習でも一切抜いたところのない野球に対する生真面目さを見ると、まだまだ伸びる要素は十分。すでに「隠し玉」の域をはるかに凌駕している。
このまま行けば大瀬良大地(広島)以来、5年ぶりの九州共立大からのドラフト1位指名はもちろんのこと、「ドラフト戦線の主役最右翼」に躍り出る可能性が極めて高い。来春以降、侍ジャパン大学日本代表入りの可否も含めて島内の動向からは目が離せない。
初日の紅白戦で最もインパクトを残したのは紅組先発の平川裕太(国際武道大3年、右投右打)だった。普段はストッパー役を務める平川は、終始外角低めへ「突き刺さる」最速144キロのストレートを披露。3回を完全に抑え、奪った4個の三振はすべてストレートで決めている。
この日は秋の関西学生リーグで4勝、防御率1.26をマークし、注目株の1人に数えられていた最速149キロの山上大輔(立命館大3年・右投右打)も登板した。平川と同じく144キロを出しながらも、置きにいくボールが多く、3イニングス目に2失点とやや精彩を欠いた。それだけに平川の投げっぷりのよさがいっそう際立った。
120キロ台のスライダーがほとんどだった変化球の精度とスピードは、平川の課題だが、ほかにはないストレートの切れ味は身長171センチのハンデを跳ね返す大きな武器。冬に鍛錬を積み、来春以降は壁を突破へ。平川のこれからに期待したい。
今回の侍ジャパン大学代表候補強化合宿に招集された3年生投手は右投手8人、左投手2人。全18投手中10人だった。連載第1回を含めここまで8投手を紹介してきたが、残る2投手も、なかなかの好素材だ。
1人はすでに中央球界でも名を知られている中村稔弥(亜細亜大3年・左投左打)。寒風吹きすさぶ最終日の紅白戦では、ストレートの最速こそ138キロに留まったものの、120キロ台のスライダー、チェンジアップに100キロ台のカーブを有効に使って、3回を1安打無失点。この投球術の巧さに迫力が加われば、東都大学リーグ最優秀投手に輝いた2年春を超える活躍が見込まれる。
もう1人は193センチ85キロと合宿招集50名中、2番目の長身を誇る川辺凛(京都産業大3年・右投右打)。先発して5回1失点だった昨年の大学選手権以来の全国舞台となった紅白戦では、65球を要しながらも3回を1安打、2四死球、2奪三振の無失点。空振り三振を奪った最速139キロのボールは指のかかりもよく、球速以上に威力があった。
ただ、投球フォームは両脚がついた時間がほとんどないなど、原理原則からはかけ離れたもの。「面白い」と評したスカウト陣の声を「いいね」にするためには、投球フォームをもう一度見直すなどの「探究」が不可欠だ。