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DeNAキャッププロジェクトで思い出す、野球選手と野球帽のちょっといい話

 12月1日、DeNAが球団発足5周年となる来季の取り組みを発表。そのなかで、神奈川県の子どもたちに球団キャップを無料配布する企画があり、話題となっている。

 配布の対象は神奈川県下の幼稚園、小学校、特別支援学校、保育所など3730カ所、約72万人にものぼる。今月中旬頃から配布をスタートするということなので、もうこのキャップを被っている子どももいるかもしれない。

 人気面と競技人口の底辺拡大が至上命題とされる昨今の野球界。その中にあって、今回のDeNAの企画は素直に素晴らしいと思う。筆者のまわりを探しただけでも、子どもの頃、親戚から野球帽をもらったことで野球を始めた、そのチームを応援するようになったといった例はいくつもある。選択肢が多い現代において、この企画で競技人口が劇的に増えることは難しいだろうが、将来のDeNAファン増加には間違いなくつながるはず。今年に限らず、そして他球団でもぜひ実施して欲しい企画だ。

 今回はこのDeNAキャッププロジェクトにちなみ、過去にあった「野球帽をめぐるちょっといい話」を紹介したい。


遅刻をしてでも野球帽を配り続けた男


 2004年に球団が誕生し、翌年からペナントレースに加わったのが東北楽天ゴールデンイーグルス。その新興球団で最初にチームリーダーを務めたのが山崎武司だった。

 2004年オフ、オリックスから戦力外通告を受け、一度は引退する意向を固めた山崎だったが、楽天初代監督の田尾安志から声をかけられ現役続行を決断。新球団での心機一転を決意した……はずだったが、なぜかいつも集合時間ギリギリにならないと姿を見せなかった。なぜ遅れるのか? 田尾監督が問いただしたところ、山崎は重い口を開いた。

「昼休みに小学校で帽子を配っているんです」

 山崎はチームリーダーとして、自腹で楽天のキャップを購入。新球団のファン獲得のため、地道な活動を続けていたのだ。

 その後、7月からは球団公式の活動として「楽天イーグルス・学校訪問」がスタート。7月27日の学校訪問で子どもたちにホームランを打つ約束をした山崎は、その夜、宣言通りのホームランを打って子どもたちをさらに喜ばせた。


帽子のつばに綴った言葉の力で全国制覇を果たした怪物


 野球帽といえば、帽子のつばに目標や夢を書く球児は多い。人気漫画『ダイヤのエース』でも、郷里の仲間のメッセージをつばにしたためた主人公の姿が作品冒頭で描かれている。プロになるとさすがに少なくなるが、彼らも高校生だった頃は「全国制覇」などの文字を綴っていたものだ。

 平成の怪物、松坂大輔もそんなひとり。1998年、甲子園春夏連覇を達成して伝説になった男だが、わずか1年前は精神的にもろい一面がある「いい投手」のひとりだった。

 ところが、高校2年の夏、神奈川大会準決勝で相手打線を8回までわずか3安打に抑えながら、最終回に突如変調。最後は松坂のワイルドピッチで逆転負けを喫してしまう。

 自分のミスで先輩たちの甲子園の夢が断たれてしまった……このミスをキッカケにして、松坂が「怪物」へと変貌を遂げたのは有名な話。そして、松坂が変わったことがもうひとつあった。帽子のつばにあるメッセージを書き込んだのだ。

 振り返れば、1998年の横浜高校は圧倒的な力で勝ち上がったというよりも、奇跡的な逆転劇の多いチームだった。選手個々を見れば、のちに松坂を含め4人もプロ選手を輩出した超個性派集団。それ故、ハマった時は強いが、前年夏の松坂同様、一度崩れると脆い部分があった。

 このことを危惧した渡辺元智監督があるとき、練習は一切行わず、温泉につかりながら会話、食事をしながら会話、スキーをしながら会話……という「会話だけの合宿」を実施。この合宿を契機にチーム力がかつてないほど高まり、「オレが決める」ではなく、「みんなで勝とう」という気持ちが生まれ、最後まで諦めないミラクルチームへと変貌を遂げたのだ。

 そして、そのチームワークがあったからこそ、より輝きを増した怪物・松坂大輔。彼の帽子のつばに書かれていた言葉は「one for all(一人はみんなのために)」だった。


 野球帽がキーアイテムになるエピソードとしては、フィクションではあるが重松清が上司した小説『赤ヘル1975』もオススメしたい。この作品では、赤い帽子に変わったことで「赤なんて女の色」と揶揄する声が生まれた1975年の広島東洋カープ、そしてファンを巡る物語が描かれている。帽子の色を赤に変えたこの年、広島は悲願の初優勝を遂げた。帽子がキッカケで球団の戦う姿勢が変わることもある。そのことを、DeNAの選手ひとりひとりにも改めて考えてもらいたい。


文=オグマナオト(おぐま・なおと)

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