シーズン中盤まで首位を独走した1996年と、今季はよく似ている。そんなことがまことしやかにはささやかれている。
どこが似ているのか? 1996年も今季も、特徴は打撃力が売りの「攻撃型チーム」なのだ。1996年の打線は「ビッグレッドマシン」と呼ばれ、球団史上屈指と語り継がれる最強打線。今期の打線はその再来か? ともいわれている。
そんな類似点があるからこそ、不安にかられても不思議ではない。そこでまず、1996年と今期の打線をみてみたい。
《1996年の打線》
■主力選手
緒方孝市 打率.279 23本塁打 71打点
正田耕三 打率.235 2本塁打 35打点
野村謙二郎 打率.292 12本塁打 68打点
江藤智 打率.314 32本塁打 79打点
前田智徳 打率.313 19本塁打 65打点
ロペス 打率.312 25本塁打 109打点
金本知憲 打率.300 27本塁打 72打点
西山秀二 打率.314 3本塁打 41打点
■控え
町田公二郎 打率.308 9本塁打 23打点
浅井樹 打率.339 6本塁打 28打点
高信二 打率.256 0本塁打 8打点
《2016年(7月上旬)》
■主力選手
田中広輔 打率.269 7本塁打 19打点
菊池涼介 打率.309 8本塁打 40打点
丸佳浩 打率.292 10本塁打 53打点
ルナ 打率.286 2本塁打 18打点
エルドレッド 打率.319 16本塁打 38打点
新井貴浩 打率.313 7本塁打 55打点
鈴木誠也 打率.312 11本塁打 43打点
石原慶幸 打率.147 0本塁打 4打点
■控え
松山竜平 打率.294 6本塁打 26打点
安倍友裕 打率.281 3本塁打 20打点
下水流昂 打率.357 3本塁打 11打点
小窪哲也 打率.220 1本塁打 5打点
會澤翼 打率.217 3本塁打 12打点
1996年の打線は、チーム打率.281(リーグ1位)、162本塁打(同2位)、670得点(同1位)。3割打者が5人、20本塁打以上が4人と、驚異的な破壊力を誇った。対して今季は、リーグ1位のチーム打率.268だが、パワー不足は否めない。
しかし、1996年の打線には懸念があった。主力と控えの実力差大きく、選手層が薄かったのだ。その事実はあまり知られていないが、懸念は主砲・江藤智が離脱して明らかとなった。
それまでの試合で4番を張った江藤が8月29日に負傷離脱。その直後の戦績は、11勝13敗。なんとか5分に近いところで我慢できた。しかし、熾烈な首位争いを繰り広げた9月15日から最終戦までの戦績は3勝11敗。勝負どころで大きくつまずいてしまった。
江藤の穴を埋める控え選手がいなかったことが、優勝を逃した要因だ。
一方今季は、6月15日に主砲・エルドレッドがケガで離脱するも、即座にルナが1軍昇格。元々併用されていた松山、新井らとともに出場を分け合い、それぞれが好成績を残した。エルドレッドの穴を十分に埋めたのだ。
6月の11連勝中、エルドレッドが出場したのは最初の3試合のみ。主砲抜きで大型連勝をやってのけたことが、今季の層の厚さを物語っている。
今季の強さの要因は、控えの層の厚さだけに限らない。田中、菊池による12球団屈指の二遊間など、守備力の高さも威力を発揮している。1996年は、衰えのみえる二塁手・正田と、ケガを抱えた遊撃手・野村という苦しい二遊間だった。守備力の差は歴然といえるだろう。
投手に目を移してみよう。1996年はチーム防御率4.08。今季はここまでリーグ2位の3.42。安定した先発3本柱に、力のあるリリーフ陣が整っている。
このように1996年と今季は明らかに違う。1996年の広島は「打撃のチーム」。今季は「総合力のチーム」といっていいだろう。主力を失った打撃のチームはもろいが、総合力のチームは全体でカバーし合える。今年の方がはるかに強い気がしてならない。
1996年についてもうひとつ触れると、激しく追い上げるヒーロー・長嶋茂雄率いる巨人を、メディアと国民が一体となって強く後押した。今季はそういった向かい風は皆無。それも優勝への後押しとなるだろう。
めったにない優勝争いに、とまどっているのか? はたまた卑屈になりがちなファンの気質がそうさせるのか? 何かと「メークドラマ」の悪夢がよみがえり、不安を煽られてしまう。だが、広島ファンの皆さん、安心してください。今年のカープはきっとやってくれますよ。
文=井上智博(いのうえ・ともひろ)