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第20回 「春男」選手名鑑

「Weekly野球なんでも名鑑」は、これまで活躍してきた全てのプロ野球選手、アマチュア野球選手たちを、さまざまな切り口のテーマで分類し、テーマごとの名鑑をつくる企画です。
 毎週、各種記録やプレースタイル、記憶に残る活躍や、驚くべく逸話……などなど、さまざまな“くくり”で選手をピックアップしていきます。第19回のテーマは、開幕直後に大活躍した「春男」選手名鑑です。

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 前回は低迷するチームで孤軍奮闘し、その結果「春の珍事」を演出することになった選手をピックアップしました。ただ、春先に活躍し観る者の記憶に残った選手はまだまだいます。今回はチーム成績を問わず鮮烈な活躍を見せた“春男”たちで名鑑をつくります。


2004年岩隈久志(近鉄)

 この年をもってオリックスに吸収合併されることとなった大阪近鉄バファローズ。そのラストイヤーに確固たるエースに上りつめたのが岩隈久志だった。2000年、東京・堀越高校を卒業し、近鉄にドラフト5位指名を受け入団。投手陣が手薄だったこともあり3年目の2002年にローテーション入りを果たす。翌03年には15勝を挙げパウエルを押さえチームの勝ち頭となる。
 この勢いを翌年も維持した。開幕投手に選ばれ、初戦の日本ハム戦で勝利を挙げると3月から4月にかけて計5試合に登板し5勝(日本ハムから2勝、オリックスから2勝、西武から1勝)。その後も5月も4勝、6月も3勝して、6月20日のロッテ戦で敗戦投手になるまで12連勝を記録した。8月にはアテネ五輪代表に招集され、先発機会を3回ほど失ったが、それでも15勝を挙げ、パの最多勝利投手になっている。
 オフには分配ドラフトで決まったオリックス入りを拒み、金銭トレードで楽天入りし、楽天初年度の開幕戦ではロッテを1失点に抑え、新設球団に初勝利をもたらした。また2009年春に開催された第2回WBCではMVP級の活躍を見せてもいて、故障やアクシデントがないかぎりは、春先には本領を発揮させてきたように映る。今年もダルビッシュ有(レンジャーズ)を相手に投げ勝つなど好調。無論、岩隈は春以外の季節も優れたピッチングを見せているが、毎年うまく調整して開幕を迎える投手という印象は強い。


2004年阿部慎之助(巨人)

 岩隈が活躍した04年、セ・リーグではプロ入り4年目のシーズンを迎えた若き阿部慎之助が、神懸かった打撃を見せた。4月に出場した23試合で86打数32安打。そのうち二塁打が4本、本塁打が16本。打率は.372に、長打率は.977に達した。
 また、4月9日から16日にかけて6試合連続本塁打を記録。さらには28日のヤクルト戦では3本、翌日も2本の本塁打を打ってみせた。この月末の“バカ当たり”で月間本塁打は16本に到達。この記録はやはり印象深い夏男・江藤智(広島)が94年の8月に記録して以来のプロ野球タイ記録となった。
 この好調は5月に入っても続く。5月12日までにさらに4本塁打。20本塁打到達までに要した「33試合」は、55本塁打を記録した01年のカブレラ(西武)の記録を上回る最速記録だった。
 ここまで単純計算だとシーズン83本という驚異的なペースだったが、5月後半に量産は止まる。7月までの2ヵ月半はケガによる欠場もあり、本塁打は6本しか出ず、これが響き結局33本でシーズンを終えた。それでも捕手としては6人目、巨人の捕手としては史上初となる30本超えという偉業は達成。なお、この年の巨人はローズ、小久保裕紀、ペタジーニ、高橋由伸など主軸を打てる打者がそろっていた。そのため阿部が打ったのは7番か8番という下位の打順だったのも驚くべきことといえる。



2009年草野大輔(楽天)

 都市対抗などで活躍していた草野が29歳・妻子持ちのオールドルーキーとしてプロ入りしたのが2005年。センスや勝負強さを見せ、2年目の06年は規定打席未到達ながら110安打を放ち打率.320を記録した。一方で不振に陥ることも多く、左投手が登場すると控えに回ることも多かった。
 4年目の09年、オープン戦はケガで控えに回ったが、4月12日に復帰。スタメン出場を果たすと4安打を固め打つ。翌戦、翌々戦も2安打し12打数8安打。その後も代打出場を挟みながらも安打を重ね、4月を終えた時点で40打数21安打、打率は.525に達した。チームも好調で球団史上初めて4月を首位で終えた。
 草野は5月に入っても好調を維持し21試合連続安打などを記録。下旬に規定打席に達し、打率は.402でその時点で首位打者となる。
 その後はケガによる離脱などもあり打率を下げるも3割をキープ。チーム2位となる打率.305でシーズンを終えた。チームも草野の活躍はもちろん、投手陣の充実や山?武司や鉄平らの打撃好調により2位となっている。
 草野は2012年をもって引退したが、このシーズンの活躍は天才肌の打撃センスをファンの脳裏に刻む印象的なものだった。


その他の「春男」選手

1996年西崎幸広(日本ハム)
4月で5勝、防御率2.70でチームを牽引。4月を上位で戦い抜いた日本ハムは5月以降8月末まで首位を走った。西崎は14勝を挙げ、翌年オフに西武へトレード。

1997年大野豊(広島)
 41歳のシーズン、春から好調。チームの4月2位を支え月間MVPに。最優秀防御率(2.85)を獲得した。

1998年前田智徳(広島) 広島はこの年、小林幹英らの活躍での4月を14勝8敗で終えセ・リーグトップに。前田はこれを打で支え、月間打率トップの.370、5本塁打を記録した。この年のシーズン打率.335は自身最高。

2002年今岡誠(阪神)
 6年目のこの年、1番・二塁でレギュラーを獲得すると、4月に打率.343、5本塁打、14打点を記録。星野仙一監督就任1年目のブレイクだったことから、野村克也前監督への批判の種にも。

2009年金子誠(日本ハム)
 守備の人・金子が突如バットで活躍。「7試合連続二塁打」など78打数22安打、打率.423。恐怖の9番打者としてチームを支え優勝に貢献。この年はキャリア初のシーズン3割を達成。

2009年金本知憲(阪神)
 4月の間に「3打席連続本塁打」2回にサヨナラ打2回。打率も.379とよく打ち、41歳にしてもなお頼れる“アニキ”を印象づけた。翌年からケガによるパフォーマンス低下でバッシングを浴びたが、この頃の活躍があまりに鮮烈すぎたから?

2010年荻野貴司(ロッテ)
 ルーキーながら開幕からレギュラーとして出場。開幕から5月下旬までの46試合で25盗塁を記録する俊足と巧打(打率.326)で活躍。ケガで離脱して以降、同じような輝きが見られないのが非常に惜しい。

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 90年代〜2000年代の選手でまとめましたが、4月に活躍した選手は、一過性のものであっても成績上位者にその名前が記載されます。また野球が始まった時期は特にファンの目が集中力をもって注がれるからか、印象に残りやすいといえるかもしれません。選手にとって、シーズンにおいて特に調子の上がる時期は限られたものだと思われますが、春先に“パッ”と輝いた選手が記憶されやすいのは、なんだか桜の花のようでもあります。
 今シーズンも、打者なら10本塁打24打点を挙げている移籍初年のブランコ(DeNA)、新人ながら高打率を誇る金子侑司(西武)、投手ではやはりルーキーで31奪三振に対し3四球という極上の内容で3勝を挙げている菅野智之(巨人)などが注目を集めています。彼らはシーズンを通して現在の勢いのキープできるのか、興味深いところです。

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