梨田昌孝監督2年目の来季、上位を狙う楽天が単独1位で指名した即戦力投手は「高校BIG4」の一角・横浜高校のエース。負けるたびに成長を遂げた右腕は「打たれないストレート」を追い求める鍛錬の日々を過ごした。
潜在能力とスケールの大きさを評価した楽天がドラフト1位で指名。自らの名が読み上げられた瞬間、藤平尚真は「驚きのち笑顔」の表情を浮かべていた。
「1位指名でくるのかなと不安な気持ちはあったんですけど、このように1位で指名していただきとてもう嬉しかったです」
武器は186センチ84キロの均整の取れた体から投げ込むストレート。最速152キロで、アベレージでも140キロ台中盤を記録する。右バッターの外、左バッターの内側に鋭く曲がり落ちるスライダー、高速フォーク、シンカーと変化球の質も高い。
3年夏の甲子園、2回戦の履正社戦では「初戦の後に練習した」という新球・シンカーを左バッターの外に配し、打たせて取るうまさを見せた。「152」の数字が注目されるが、変化球を器用に操る術を備えている
ドラフト当日、取材陣から高校野球の思い出を聞かれると、「悔しい思い」というフレーズを二度繰り返した。「高校野球ではとても悔しい思いをしながら成長してきたので、プロ野球でもまた悔しい思いをして、少しずつ成長していきたいです」
喜びよりは悔しさの方が多い3年間だったといえる。いかにして悔しさを力に変えて、ドラフト1位の座をつかみとったのか。投手人生の軌跡を振り返ってみたい。
ドラフト会議のおよそ1年前の11月1日――。
藤平は失意のどん底にいた。
県大会では自己最速となる151キロを記録するなど好投を続け神奈川を制するも、関東大会の初戦で常総学院に1対3の逆転負け。5回、宮里豊汰にシュート回転の高めのストレートを完璧にとらえられ、逆転2ランを浴びた。
「自分のせいで負けた」と自らを責めた。試合後の挨拶を終えた瞬間にその場で泣き崩れ、仲間に抱えられながらベンチ前に。報道陣の取材に応えられる状態ではなく、藤平の取材は中止となった。
「私自身もショックを受けています」と語ったのは、新チームから指揮を執る平田徹監督。のちに、「あの時は監督である私も前のめりになりすぎていた」と明かす。監督も選手もチーム力には自信を持っていただけに、立ち直るのには時間がかかった。チームには3日間の休みが与えられ、敗戦から4日目に練習再開となった。
「自分のせいで負けたので、みんなに合わせる顔がない。でも、練習に出ると、みんなが新しい気持ちで臨んでいた。この悔しさを晴らすには夏しかない」
気持ちを少しずつ奮い立たせ、夏に向けて始動した。ただ、悔しさは時間とともに薄れていくものだ。特に公式戦のない冬はモチベーションの維持が難しい。そこで悔しさを忘れないためにも、目標設定シートを書く決意をした。
次号「目標設定シートに込めた決意」
(※本稿は2016年9月発売『野球太郎No.021 2016ドラフト総決算&2017大展望号』に掲載された「28選手の野球人生ドキュメント 野球太郎ストーリーズ」から、ライター・大利実氏が執筆した記事をリライト、転載したものです。)