人生において(主に仕事かもしれないが)ミスはつきものだ。自分がミスをする場合、他の人がミスをする場合といろいろな場面がある。そんな困った事態に陥ったとき、思い出したいプロ野球選手の言葉をいくつか紹介したい。
「これはうまくいっただろう」と思う瞬間。仕事をしているとそういった場面がたびたび出てくる。取引先との商談、企画のコンペ、関連部署への根回しなどパッと思いつくだけでも複数ある。
しかし、どこでどう間違ったのか結果は失敗に終わり、どんでん返しを食らうことも少なくない。途方に暮れる、いや、打ちひしがれるといった表現がいいかもしれない。とにかく、絶望感があふれるそんな場面である。
そんなときに思い出したいのが岩隈久志(巨人)の言葉である。
「これが野球だなと……」
マリナーズ時代の2017年4月9日(現地時間)、岩隈は先発した試合で6回1失点の好投でリリーフ陣に後を託した。この時点で7対1とマリナーズは大量リード。勝ち星は間違いないと思われていた。
その後もマリナーズは追加点を奪い9回裏が始まる時点で9対3。あと1回を抑えれば、といった状況だった。しかし、である。この裏にリリーフ陣が7失点を喫し、まさかのサヨナラ負け。
岩隈は呆然とした面持ちでインタビューを受け「これが野球だな、という形になりました」とコメント。こういったことが起こりうるのも野球、と言葉を振り絞った。
仕事も同様だ。自分の役割をしっかりとこなしても、うまくいかないことは多くある。そんなときに岩隈の言葉を思い出し、正気に戻りたい。
多くの場合、仕事は1人ではなく複数の人や企業でまわしていくことになる。自分の役割だけでなく、ほかの役割があり初めて仕事は完成する。自分がうまくやっても、ほかがうまくできなければ全体としては失敗、ということもある。当然、その逆もしかりである。
自分がうまくやったにもかかわらず、その他の人のミスで失敗に終わってしまったら、愚痴のひとつやふたつが飛び出してもおかしくない。「あの人のせいで……」とか「自分は悪くないのになぁ」と。しかし、そんなとき今永昇太(DeNA)の言葉を思い出してほしい。
「『援護がない』と言うのは防御率0点台の投手が言うこと。自分が安定していればいつか打線が爆発してくれる」
複数の人間で取り組んでいくのは仕事も野球も同じこと。今永はいい投球をして敗れても「援護がない」とは決して言わない。「それを言ってもいいのは防御率0点台の投手」と、そのレベルに達していない自分を戒めているのだろう。
つまり「打線が悪いのではない。自分も抑えることができなかった」と考えているのである。まずは自分を見つめ直す。なにごとにおいても大事なことだろう。
人間誰しもミスはある。自分のミスで周りに迷惑をかけてしまうことも(ないにこしたことはないが)起こりうる。そこでどのような態度をとるか。その振る舞いでその場の空気や視線、自分への評価など、ありとあらゆる面が変わってくる。
そんなときに思い出したいのが、元ヤクルトの比屋根渉の言葉である。自身の失策で試合が延長戦にもつれ込み、最後は自分がサヨナラ打を放つというまさに自作自演の勝ち試合があった。4時間34分の長丁場だったが、その原因を招いたのは自身のミスから。それをわかっている比屋根はヒーローインタビューでこう言った。
「自分のミスでこんなに遅くなってしまってすみません。これから練習してチームに貢献できるようにしたいと思います」
しっかりファンに向けて謝罪をし、これからも頑張っていくという所信表明的なコメントを残したのである。
殊勲打を放ったのだから、お立ち台で自身のミスに触れないこともできた。しかし、比屋根はそこから逃げなかった。だからこそチームを離れるまで、愛されるキャラクターとして居続けることができたのだろう。
人柄を感じさせてくれるエピソードの一つである。
文=勝田聡(かつた・さとし)