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「アホちゃうか?」と言われた球数制限。その時、立花龍司氏が…(第三十五回)

 子どもを野球好きにさせるには? 子どもを将来野球選手にしたい! そんな親の思惑をことごとく裏切る子どもたち。野球と子育てについて考える「野球育児」コーナー。野球ライター“ハリケン”こと服部健太郎さんが実話を交えて、球数制限や全力投球制限が父兄や連盟関係者からの批判の対象になってしまった時の苦悩について語ります。

前回からの続きです)

チーム内ルール導入がもたらした負の要素とは?


 前回は「投手の球数を制限すること」「すべての球を全力で投げないこと」がもたらすメリットについて記してきたが、さまざまな葛藤や批判がないわけではなかった。

 球数を制限するということは、好投しているエースを途中で2番手以降の投手に交代させるケースも多々でてくる。少年野球は準決勝、決勝が同日に行われたり、土日の2日間で公式戦が4試合組まれたり、といった過密スケジュールは日常茶飯事。

 そんな中で、ベンチとしては「1日85球、連投の場合は2日間で110球以内」という条件の中で投手陣をやりくりした上で、最大限の成果を生もうと試みるわけだが、1年を通してみると、リリーフした子が打たれ、逆転敗戦を喫するようなケースも出てきてしまう。準決勝でエースが球数を使い果たし、続けておこなわれたダブルヘッダーの決勝戦を2番手以降の投手たちで臨み、準優勝に終わるケースだってあった。決勝にエースを投げさせるため、準決勝を2番手、3番手投手で臨むも敗退し、決勝に進めないケースだってあった。

手段を選ばず勝ちたい保護者たちからの不満


 所属している連盟には球数制限の規定などないため、よそのチームの多くは一番勝つ確率の高いエースを連投させ、臨んでくる。つまり、球数にこだわることによって、「チームの勝率は下がってるじゃん」という見方が生まれる。

 すると、保護者たちから次のような不満の声が聞こえてきたりするのだ。

「あそこでエースを代えなかったらきっと逆転なんかされなかったのに…」
「球数が上限を超えたからって、すぐに肩が壊れるわけじゃないだろう?」
「一番勝つ確率の高いエースをがんがん連投させたらええねん! よそのチームみたいに」
「決勝でエースを投げさせなかったら、そりゃ一方的な展開の決勝戦になってしまうって。ほんま恥ずかしい」
「この大会だって、優勝しようと思えばできたはずなのに。もったいない…」

 全力投球を制限することに関しても、なにかと不満の声が聞こえてきた。

「全力で投げようと思えば投げられるのに、大事な場面で半速球を打たれるとなんか見ててイライラする」
「全力投球の比率を上げたら、絶対にもっと勝てそうな気がする」

 そういった不満を、A級の責任コーチである私に直接ぶつけてくるわけではないが、少年野球の場合、ベンチの真後ろが応援席である場合が多く、仕切りもなかったりするため、そうした声を背中で聞いてしまうことがよくある。(あえて聞こえるように言ってやれ、というケースもあるだろうが)

 たとえ、聞こえなくても、応援席の父兄の表情や雰囲気で十分伝わってくるし、妻が不意に耳にし、結果、私の知るところになるケースも多々あった。

称賛よりもはるかに多かった批判


 大会関係者たちの見方もどちらかといえば、批判的な声のほうが多かった。

「なんでこんな競った場面であのチームはエースを代えるんだ?」
「なんでも球数を決めてやってるらしいですよ」
「そんなことやってたら、勝てる試合も勝てなくなるじゃん! アホちゃうか?」

 という会話がネット裏でかわされていたことも漏れ伝わってきたし

「決勝戦なのにエースを出してこないなんて…。お互いに一番の投手をぶつけてくるのが礼儀というものだろう。片方のチームはちゃんとエースを連投させてるのに、けしからん」

 という見方をしている連盟関係者が圧倒的多数であることも知った。
 それはあまりに意外で、かつ、ショッキングな現実だった。



立花龍司氏からいただいた心強い言葉


 そんな中、心の支えにしていたのが、楽天、ロッテなどでコンディショニングコーチを務めた立花龍司氏の言葉だった。立花氏は中学生クラブチームのオーナーでもあるのだが、「うちのチームは厳格な球数制限を導入している。そこにこだわるがゆえ、逆転負けを喫することなんかしょっちゅうだけどね」という話を取材後の雑談の中でしてくれたことがあった。気づけば私は球数制限導入がもたらす葛藤や悩みを立花氏に打ち明けていた。

「うちのチームだって、そういった保護者の不満なんかは聞こえてくるし、肌で感じますよ。でもそんなこと気にしたって仕方がない。ちゃんと子どもらの体を守るという大きな理由があるわけだし、指導者は信念を持って、突き進むしかない。もちろん勝つことで得るものもあるのはわかるけど、未来ある子どもらの体に負担をかけてまで手に入れねばならない勝利などこの世にないと思ってる。そう思わない? 服部さん」

 この日、気持ちが相当楽になったことをおぼえている。

(次回へ続く)


文=服部健太郎(ハリケン)/1967年生まれ、兵庫県出身。幼少期をアメリカ・オレゴン州で過ごした元商社マン。堪能な英語力を生かした外国人選手取材と技術系取材を得意とする実力派。少年野球チームのコーチをしていた経験もある。

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