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「人間って、ここまで化けられるんだ」千賀滉大(福岡ソフトバンクホークス)

 千賀滉大の名前を初めて聞いたのは、2010年10月28日。グランドプリンスホテル新高輪・国際館パミールで行われた、ドラフト会議場でのことだった。

 大石達也(早稲田大→西武)、斎藤佑樹(早稲田大→日本ハム)、澤村拓一(中央大→巨人)、大野雄大(佛教大→中日)らの名前が観衆を沸かせた「大学生豊作年」。計68人の選手が指名されたドラフト本会議が終わった直後、ギャラリーの半数が帰った閑散とした会議場で「育成ドラフト会議」が粛々と進められていた。

 ほとんどの球団が選択終了し、育成4巡目を迎えて指名を続けているのは巨人とソフトバンクのみ。そんななか、「福岡ソフトバンク 千賀滉大 投手 蒲郡高校」のアナウンスが場内にこだました。「蒲郡高校…ということは、愛知県か?」今となっては恥ずかしい限りだが、その時は千賀の存在はおろか、学校の所在地すらよく知らなかった。

 しかし、その時はまだ誰も知らなかったはずだ。3年後、この無名の高校生が「いま見ないと絶対に後悔する選手」になるということを。

 今の千賀滉大の投球を見たことはあるだろうか?

 150キロを超える、「ギュルギュル」という回転音が聞こえてきそうな迫力満点のストレート。えげつないほどに落ちるスライダーとフォーク。ストレートも変化球も超一級品。そして眩しいのは、マウンドから発散される「若さ」だ。

 今季の千賀の成績は、50試合に登板して1勝4敗1セーブ、17ホールド(9月2日時点)。56回を投げて85奪三振、奪三振率はなんと13.66だ。若さがマイナスに出てしまっている数字もある。今季の「4敗」は、6月末から7月頭にかけて4試合連続で救援に失敗して喫したもの。また56回しか投げていないのに、暴投はリーグトップの「10」。これは、それだけ千賀のボールが「止められない」ということの証左でもあるだろう。

 爆発力と危うさ。その日マウンドに立って、実際に投げてみないとわからない怖さはある。ホークスファンにとっては楽しみな反面、心臓に悪い選手でもあるのだろう。しかし、この投手は「勝った」「負けた」で云々しなくていいのではないかと思う。今、球場で「千賀のピッチングを見た」というだけでも自慢できる。こと「ハマった時のボール」に関しては、今年のプロ野球ナンバーワンなのではないか。

 ひょっとしたら来年以降はもっと凄いボールを投げているかもしれない。今よりもコントロールが良くなって、安定感が増しているかもしれない。しかし、何よりも光って見えるのは千賀の「今」なのだ。

 3年前の千賀滉大の投球を見たことはあるだろうか?

 当サイトのコーナー「俺はあいつを知ってるぜっ」では、千賀の高校3年時に撮影した投球フォーム動画を見ることができる。静岡県のライター・新井広美さんが撮影したものだ。

 新井さんは「投げている剛速球は違うとかそんなレベルではない。別人でもまだ足りないと思うほどだった」と書いている。また、同じくその頃の千賀を見ているライター・尾関雄一朗さんはこう書いている。「3球団ほどのスカウトが訪れていたが、彼らのスピードガンが示す数字は135キロ前後。高校での最速は140キロを超えていたというが、有無を言わさぬストレートで打者を圧倒するとか、そういう様子ではなかった」。

 高校時代の映像を見れば、新井さん、尾関さんの感想もうなずけるはずだ。そしてこうも思えることだろう。「人間って、ここまで化けられるんだ」と。

 千賀のボールは、見る者にいろんなことを教えてくれている。何度でも言いたい。今見ておかないと、絶対に後悔する。




ライタープロフィール
菊地選手(きくちせんしゅ)…1982年生まれ。編集者。2012年8月まで白夜書房に在籍し、『中学野球小僧』で強豪中学野球チームに一日体験入部したり、3イニング真剣勝負する企画を連載。書籍『野球部あるある』(白夜書房)の著者。現在は『野球太郎』編集部に所属。

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