田中将大(楽天)をどう攻略すればいいのか?──今年のポストシーズンの行方、その最大の焦点はここに尽きるだろう。そこで『週刊野球太郎』では、データスタジアム(株)協力のもと、今シーズンの田中と楽天にまつわる様々なデータから「田中将大攻略法」を検証する。観戦の際のチェックポイントの1つとして楽しんでいただければ幸いである。
23勝0敗1セーブ。防御率もリーグ1位の抜群の安定感。56年ぶりにシーズン連勝記録を塗り替え、シーズン23勝は1978年の鈴木啓示(当時近鉄)、東尾修(当時クラウン)以来35年ぶり。だがそれ以上に凄いのは、26試合に先発登板しながらいまだに「0敗」ということではないだろうか。本日(8日)夜に最後の登板を予定しているが、このまま無敗でシーズンを終えれば、20勝以上の投手として史上初の偉業となる。
そう、今シーズンの田中は、「打たれない」のではなく、「負けない」が正しいのだ。まずはその「負けない」秘密を探ってみよう(※以下のデータは9月30日時点のもの)。
どうすれば負けないか、という問いへの単純な回答は、味方の得点よりも抑えればいい、ということになる。
今シーズン、田中が先発登板したときの楽天打線の援護射撃がとにかく凄い! 9月末までに22試合198イニングを投げて、援護率が「6.00」。これは楽天で10試合以上登板した投手の中で最も高い数字であり、パ・リーグの規定投球回を投げた投手の中でも2番目に高い。(※「援護率」とは先発投手が登板中の味方による得点数を、9イニングあたりで換算した数字。参考までに、今季、田中に次ぐ14勝をあげているルーキー・則本昂大の援護率は「4.68」となっている)
ちなみに、防御率パ・リーグ2位の金子千尋(オリックス)は、田中のほぼ半分の援護率「3.10」。打線が違う以上他チームの投手同士の援護率比較はあくまでも参考ではあるのだが、同じ防御率1点台の2人にもかかわらず、片や23連勝で、金子は13勝(8敗)という勝利数の差には「味方の援護」も起因しているだろう。
ではなぜ、楽天打線は田中が登板中によく爆発するのか。これはズバリ、対戦投手によるところが大きい。
今季、田中が2試合以上投げ合った相手投手はわずか2人(4試合)。それに対して、オリックスの金子は4人(計11試合)同じ投手と投げ合っている。「同じ相手と投げ合う機会が少ない=ローテーションが決まっている相手(エース級)ではない」と見ることができるだろう。
今季の楽天の開幕投手は、WBCの影響もあって田中ではなく則本だったことが、田中の連勝記録に大きな影響を与えていたのだ。
田中と金子の今シーズンの数字の違いをもう少し掘り下げてみよう。
試合全体を通して安定している今季の田中だが、その中でもさらに安定感が増すのが試合中盤の3イニング(4〜6回)。この3イニングだけを見てみると、年間でも自責点がわずか「6」しかない。一方の金子は、この試合中盤に打たれて、流れが変わる場合が多い。
特に顕著なのが、4・5回のピッチング。金子のこの2イニングの防御率が「2.94」なのに対して、田中はなんと防御率「0.18」。先発投手にとって“勝ち投手の権利”にかかわる中盤で、ギアを入れ直すことができるのが、今季の田中が勝利を呼び寄せる大きな要因なのだ。
その一方で、立ち上がりの2・3回に限ってみれば、田中の防御率は「2.34」。決して無敵ではないこともわかる。
では、本稿のまとめに入ろう。
田中将大攻略は、田中から打つ勝つことよりも、田中に投げ勝つことを意識すべきではないだろうか。つまり、田中から打つこと以上に“エース同士の投げ合い”で楽天打線を抑え込むことが最重要テーマなのだ。
のっけから「田中攻略」ではなく「楽天攻略」の話になってしまって恐縮だが、短期決戦のCSや日本シリーズにおいては、田中に勝ち星をつけないことだけでも、流れや勢いが大きく変わってくるはずだ。
そして、勝負所は序盤の3回まで。田中のエンジンがかかる前に1点でも多く奪っておく必要があるだろう。第一打席を最終打席の心づもりでぜひとも臨んで欲しい。
文=オグマナオト/1977年生まれ、福島県出身。広告会社勤務の後、フリーライターに転身。「エキレビ!」では野球関連本やスポーツ漫画の書評などスポーツネタを中心に執筆中。また「幻冬舎WEBマガジン」で実況アナウンサーへのインタビュー企画を連載するなど、各種媒体にもインタビュー記事を寄稿している。ツイッター/@oguman1977