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“神ってる”素質を持っていた鈴木誠也(広島)! しなる体とスケールが圧倒的だった高校時代

バネと高い身体能力としなる体は歴然


「こりゃ完全な素材型の“原石”だ。さっさと写真だけ撮って退散しよう」

 いきなり、過激な内容でスタートさせたが、これは、私が鈴木誠也を初めて直接見たときに、第一印象として頭の中をよぎった言葉である。

 別に過小評価したわけではない。二松学舎大付でプレーしていた鈴木は、あまりにも典型的だったのだ。


 時は2012年の春季東京大会。場所は神宮第二球場。

 当時の体のスペックは181センチ81キロ。数字上は立派な体格だが、実際に見た印象はもっと細い。だが、身は締まっているのは明らかで、走る姿ひとつとっても、バネのように体がしなっていた。

 有望選手を見定めるのに、この「体がしなる」という要素を見つけることができたら、あとは付録に近い。そう断言できるくらいの“宝物”だった。

 ただ、鈴木のように“宝物”を持つ選手が、全員プロの世界へ行って、しかも開花するとは限らない。しなやかに体を使えることは、大きく育てばこのうえない武器になる可能性を秘めてはいるものの、目の前の野球の結果に直結するとは限らないからだ。

 そのため、本人や指導者が結果を最優先すると、せっかく生まれながらに授かった才能を手放してしまうことがある。フォームを小さくしたり、体を筋肉で固めてしまったり……。まるで価値の高い家宝を質に出して生活費を捻出するかのように、背に腹は変えられぬ心境に耐えられなくなり、将来の可能性を失ってしまう選手は数知れない。それが、高校野球における有望選手の扱いの難しさでもある。


ピッチングを見て、「感覚派の原石」と確定


 鈴木がしなやかな体を使う“原石”であることがわかったあと、私は「写真だけとったらさっさと退散しよう」という心境とは裏腹に、次の用事のギリギリまでそのプレーを追った。

 理由は、「現時点でのゲームにおける対応力」を知っておきたかったからだ。もし、鈴木が“野球脳”を持つ選手なら、なにか面白いことを考えてプレーするはず。そんな挙動をどこかで垣間見ることができれば、進路は必ずしもプロでなくとも構わない。大学、社会人へ進んで、自己を管理、律することで開花するという道もあるからだ。

 そのような思いで試合を見ていたところ、この試合は外野手で先発出場していた鈴木が、途中からリリーフのマウンドへ上がった。これは好都合だ。当時は140キロ超の好投手でもあったので、ピッチャーとしての可能性は絶対に見ておかねばならなかったし、マウンド上での所作やプレーぶりで“野球脳”があるか観察もできる。


 さて、マウンドに立った鈴木の振舞いはどうだったか?

 ストレートは明らかに加減しており、130キロそこそこしか出ていなかった。とはいえ、フォーム自体は、全身をしならせるようにして投げており、メカニズムは素晴らしい。そのせいか、スピード自体は大したことはなくても、それなりの球威は感じることができた。

 (あとで知ったことだが、この頃はいろいろと故障を抱えていたらしく、全力投球は難しい状況だったようだ)

 そして、スライダーについては、ある程度しっかり投げているときは、曲がり幅の広い大きな変化を見せた。ただ、そういった投げ方をしていたのはわずかで、やや抜き気味にカウントを稼ごうとするカーブに近いスライダーの方が多かった。そのときのフォームは、ストレートよりも縮こまるようにして投げており、鈴木の体が妙に小さくなったように見えたのが印象的だった。

 決定的な判断基準になったのは、そんなフォームから緩めのスライダーを3球続けて投げることが何度かあったときだ。

 サインを出しているのは、もちろんキャッチャーで、万全ではないコンディションが影響していたかもしれない。しかし、同じスライダーを投げるにしても、頭脳的なピッチャーが3球も続けて投げる場合は、1球ごとに微妙な変化をつけるもの。だが投手・鈴木には、そのような気配は感じられなかった。

 この時点で、私が下した鈴木の評価は、「野球脳的には現状でほぼ無垢に近い。やはり“感覚派”。高い身体能力を持った原石の中の原石」で固まった。

見せつけられた打のスケール


 その後、鈴木はプロ球団のスカウトの評価を上げ、上位指名も噂された。この年の高校生に鈴木ほどのしなやかさを持った選手がいなかった、という事情もあったのだろう。

 そんな折に、心身ともに状態がよく、伸び伸びとプレーしている動画を見ることができた。

 前年の12月に、東京都高野連による単独主催で、選抜チームがアメリカへ遠征して日米親善試合を行っていた。鈴木はそのメンバーに選ばれており、国内で行われた代表合宿の模様を撮影した動画だ。

 そこで一番驚かされたのはバッティング。春の大会で見たときよりも、はるかに思い切りよく振っていて、おまけにスイングプレーンの半径が他の選手と比較しても異様なほどに大きかったのだ。

 事実、鈴木はこのときのアメリカ遠征で3本のホームランをかっ飛ばしており、しなやかな体の使い手であることに加えて、このスイングのスケールの大きさが、鈴木の特徴的な能力として新たに加えられることになった。結果として広島から2位指名を受けたのも納得させられる。



広島で鍛え抜かれた高いポテンシャルで山田哲人を追え!


 そして、現在。昨シーズンに先発出場数を増やすと、今シーズン、成績面でもブレイク。勝負どころで本塁打を連発する活躍で、「神ってる」というフレーズが紙面を賑わせ、いまや時の人となっている。

 2012年のドラフトを前に、プロ志望届の提出者のリストのなかに鈴木を見つけた際、私はこんなふうに思っていた。

「高校を卒業して直接プロへ進むのであれば、どの球団に行くにしてもバクチになる」

 その意味では、広島という球団は鈴木に合っていたのだろう。厳しい練習を課すことで知られる広島では、練習量に耐えられるだけの体の強さが求められる。鈴木の場合、広島だと潰れるかもしれない、という一抹の不安があったが、それは杞憂だった。

 今のスイングを見ていると、高校時代の思いきりのよさと、スイングプレーンの大きさ、そして、なによりもバネのようなしなやかな体の使い方がそのまま生かされていることが見て取れる。

 おそらく、とにかくフィジカルを鍛え、頭よりも体で覚え、反応することで、今の状態まで高めてきたのだろう。その育成方法が鈴木にはマッチしていたということが、結果で示された格好だ。


 ここまできたら、究極の「フィジカル系反射選手」を目指してほしい。幸いなことに、セ・リーグには、その最高峰のお手本たる山田哲人(ヤクルト)がいる。もっとも体が動く時期である今こそ、山田の一挙手一投足を目に焼き付け、吸収できるものは何でも取り込んでしまえばいい。

 そうすれば、ひとり高みを走る山田を脅かす強力なライバルになれるはずだ。7月21日現在、打率.326は山田に次ぐセ・リーグ2位と、すでに鈴木はタイトル争いに顔をのぞかせている。近い将来、打撃三冠すべてにおいて、鈴木と山田が争う、という日がくるに違いない。


文=キビタキビオ
1971年生まれ、東京都出身。編集者兼ライター。野球のあらゆるプレーをストップウオッチで測る記事『炎のストップウオッチャー』として活躍中。執筆業の他にNHK-BS1で放送されているプロ野球ドキュメント番組「球辞苑」などテレビ番組やイベント、研究会などにも出演し、活躍の幅を広げている。Twitterアカウント@kibitakibio。

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