野球がない日はつまらない! 試合が気になって仕事が手につかない! そんな熱烈プロ野球ファンの生態を調査する連載企画「そこまでやる!? プロ野球ファンの生態レポート」。第1回(前編、後編)に登場してもらうのは、日々、多忙な仕事をこなしながらも足繁く球場に通い詰める野球女子のAさん(30代前半、ヤクルトファン)とBさん(20代後半、ソフトバンクファン)。2人はともに同じIT企業で働いている。
昨年、Aさんは神宮球場でのすべてのヤクルトホームゲームの他、遠征も含めると75試合を観戦。Bさんは関東でのソフトバンク戦を中心に50試合を観戦した。
“何をおいても野球!”とばかり、夕方になるといそいそと姿を消す筋金入りの野球女子が2人もいて、会社は何も言わないのだろうか……、という疑念はさておき、彼女たちが球場観戦のトリコになったきっかけ、球場での“私のチェックポイント”、今季のベストゲーム&ベストプレーなどなど、“野球とともにある日々”を聞いてみた! 今回は第1回の後編。話しはますますディープに進んでいく。
前編ではサッカーファンだった2人のハートを射止めた青木宣親(ヤクルト)、上林誠知(ソフトバンク)との出会い、球場観戦における試合前練習のチェックポイントなどを聞いたが、後半では球場巡りの日々実態を中心にレポートしていこう。
先述した通り、Aさんは去年、神宮球場でのヤクルトのホームゲームは皆勤賞。遠征も含めると75試合を観戦したという。球団ワーストの96敗を喫した暗黒のシーズンに……つらくなかったですか?
「もう、すべて勝つわけではないと割り切ってはいますが、よりにもよって……(笑)。でも、私はどんなに負けていても試合の途中では帰りません。去年だと7月26日の中日戦のように10点差を逆転することもあるし、最後まで誰が何をするかわからないから、やっぱり帰れないですよね」(Aさん)
神宮球場は屋外、天候がよろしくない日もある……。
「最後までいたら初ホームランや初登板も見られるかもしれない。そう思うと耐えられます。雨の日も、寒い日も、暑い日も大丈夫。体もメンタルもヤクルトのおかげで強くなりました(笑)」(Aさん)
続いてBさん。ソフトバンクの試合を関東で追いかけるとかなりの労力がかっているのでは?
「普段は西武(メットライフドーム)、マリン(ZOZOマリンスタジアム)に、交流戦だと東京ドーム、神宮球場、横浜スタジアム。土日は観戦に費やして、平日はできるだけかけつけるようにしています」(Bさん)
ソフトバンクに乗り換える前のフェイバリット球団、日本ハムの鎌ヶ谷での2軍戦を含めると、去年は50試合を観戦したという。
「西武とマリンは家から遠いので、交通費も時間もかりますね。いつも外野で観ているのですが、食事も含めると1回の観戦で5000円くらいかかってしまいます」(Bさん)
それは、20代の女性にとってはかなりの出費……。ちなみに2人は職場の同僚なので連れ立って神宮球場に足を運ぶこともある。また、去年の夏休みは一緒にナゴヤドームと京セラドームに遠征して、おたがいの贔屓チームの試合を観戦。オフは旅行ではなく、野球に費やしている。
「最近は秋キャンプ(松山)と春のキャンプ(沖縄)にも足を運んでいるので、さらにオフの時間が減ってしまって。遠征では観光する余裕はないですね。なるべく地元の名物を食べるようにしてはいますが」(Aさん)
「Aさんと神宮球場で観戦した後は、よく居酒屋に連れていってもらっています。で、ひたすら野球の話を(笑)」(Bさん)
さすが野球女子。花より団子ならぬ、花より野球といったところか。なお、Aさんはお母さんと神宮で観戦することが多いのだが、ヤクルトが勝った日は、スポーツニュースをはしごしながらお母さんと祝杯を挙げ、負けた日は、スポーツニュースから逃げながら他の番組を見て、2人で反省会をするという。
神宮球場で知り合ったヤクルトファン歴数十年の大先輩が自ら制作し、託された山田哲人の応援旗。認められた者だけが手渡される“本物のファンの印”だ
Bさんのカギにはソフトバンクの選手のキーホルダーがずらり。彼らがBさん宅の安全を攻守に渡って睨みをきかせている
ひとつ疑問が……。ヤクルトとソフトバンクの試合をおっかける2人だが、仕事は大丈夫なのだろうか?
「会社には理解をしてもらっている……はず(笑)。私がそそくさと帰り支度をしていると『あっ、今日は神宮なんだなって』。ただ、仕事がある日は早くて18時30分に神宮に着くことになります。だから、2回表くらいまでに試合が決まっていることはないだろうと言いきかして、諦めています(笑)」(Aさん)
移動時間がかかる関東のパ・リーグ球場にかけつけるため、Bさんも仕事を早退することがあるという……。
ここからは筋金入りの野球女子の目線で、今年のベストゲームとベストプレーを挙げてもらおう。
まずはベストゲームから。Aさんは5月6日の広島戦を挙げた。1対2でヤクルトがリードされた9回裏2アウトの場面で代打・大引啓次が同点弾。10回表に勝ち越されるも、またもや10回裏2アウトから川端慎吾が同点タイムリー。11回裏もまたまた2アウトから坂口がサヨナラタイムリー。ヤクルトが“2度あることは3度ある”とばかり、4対3で逆転勝ちしたゲームだ。
「大引は好きなんですけど……2アウトで代打のアナウンスが流れた時に『ああ、うちには代打の切り札がいないんだな』って。それがまさかの中崎からのホームラン。10回裏も、11回裏も2アウトから得点。『野球は2アウトから』を実感しました。ゴールデンウイークの最終日だったので、すごく気持ちよく連休明けの仕事に臨めましたね(笑)」(Aさん)
Bさんは5月9日の西武戦。この試合のソフトバンクはBさんの中学時代の同級生・石川柊太が先発で好投し勝利投手に。内川聖一は2000安打を達成。松田宣浩の本塁打で「熱男!」を叫び、お気に入りの上林もホームラン、調子の上がっていなかった森唯斗がしっかりと最終回を抑えた。
「しかもその日は、日本ハムをおっかけていた頃から好きで、今年の4月にソフトバンクに移籍していた市川友也の誕生日。いろいろないいことが重なったゲームでした」(Bさん)
まさにBさんのために起こったかのようなゲーム内容。そして、内川の記録達成に立ち会えたのは、関東での試合に健気に通い続けるBさんへの、野球の神様からのプレゼントだったのかもしれない。
続いてベストプレーを。
「6月9日のオリックス戦。原樹理が2回でノックアウトされて、カラシティが緊急登板でロングリリーフ。途中、ピッチャーゴロを捕って、ランナーにタッチしにいって転倒して、背中が泥だらけに。ピッチャーであんなに背中に土をつけるのは見たことないですよね。で、勝利投手になって泥だらけのユニフォームのままで、ニコニコしながらヒーローインタビュー。もう感動。カラシティ、頑張れ!って好きになりました」(Aさん)
なお、このガッツと好投が実り、カラシティは先発陣の一角を担うことになる。Bさんが挙げたのは4月4日の西武戦。本多雄一と今宮健太の二遊間によるダブルプレーだ。
「セカンドの本多がダイビングキャッチからのグラブトスがすごくかっこよくて。何度も『パ・リーグTV』で見直しました」(Bさん)
ちなみに日本ハムファンだったBさんがソフトバンクに乗り換えたのは、同級生・石川と、レーザービームがカッコいい上林がきっかけ。“補殺好き”のBさんは上林の送球に惚れてしまったわけだが、華麗な守備は野球女子の乙女心を落とすキーワードなのだろう。
中学の同級生・石川柊太のユニフォーム。中学時代の石川は小柄でメガネをかけた“マルコメ君”的な可愛がられキャラだったという
「月曜日は試合がないので、日曜日のゲームは本当に大切。勝つか負けるかで火曜日の試合までの2日間のテンションが大違い」というAさん。「試合のない日、シーズンオフには何をすればいいのかわからないほど、野球が生活の一部になっている」というBさん。
最後に、ビギナーに向けて観戦の楽しさを伝えるべく、こんなメッセージを残してくれた。
「まずは野球に興味がなくても神宮球場に足を運んでほしいです。晴れている日は空がきれい。皆が手にした傘も光っていてきれい。それにビアガーデンのようにお酒を飲めるので、きっと楽しめます」(Aさん)
「東京ドーム以外では、ホークスファンは7回に黄色い風船を飛ばします。ファンが必ずもってくるくらい、風船は大事。スタンドが真っ黄色になる瞬間を体験してほしい。インスタ映えにもうってつけです(笑)」
ヤクルトとソフトバンクをおっかける野球女子の日々はこれからも続く。球場で野球を楽しみたいなぁと思っている人は、ぜひ球場観戦のトリコにされてみてはいかがだろうか。
取材の時、たくさんのヤクルトグッズを持参してくれたAさん。そのなかからお気に入りを並べてもらった
取材・文=山本貴政(やまもと・たかまさ)