■ギャンブルスタート
三塁走者がライナーのリスクを覚悟の上で、打者の打球判断をせずに本塁へ突入するこの作戦。ヤクルト監督時代の1992年、西武との日本シリーズ第7戦で、三塁走者の広沢克己が打者の内野ゴロの際に、ライナーを気にして本塁に帰れなかったことをきっかけに考案された。
■クイックモーション
投手が投球動作を小さく素早くすることで、盗塁を抑止するこの投法。南海の選手兼任監督だった1970年代に、世界の盗塁王・福本豊(当時阪急)の盗塁を阻止するために考案。盗塁阻止は「捕手の責任」から「投手と捕手の共同作業」へと変化した。
■投手の分業制
同じく南海時代、「プロ野球に革命を起こそう」の口説き文句で、江夏豊をリリーフエースとして再生。同時期に提唱していた近藤貞雄(当時中日コーチ)とともに、先発・中継ぎ・抑えという投手の分業を、本格的に定着させるきっかけとなった。
■スイッチ起用(遠山・葛西スペシャル)
阪神監督時代の2000年は、左投手の遠山奬志と右投手の葛西稔を、相手打者の左右によって投手と一塁を交代しあって登板させるという驚きの継投で話題となる。ただこの作戦は、相手打者との相性(特に遠山vs松井秀喜)や、投手の野手経験などから生まれた特殊ケースだったため、残念ながら一般化はしなかった。
■ささやき戦術
現役捕手時代は、相手打者にブツブツと何かをささやいて、打者の集中力を奪うことが十八番だった。当初は死球を示唆するような脅しめいたものだったが、後に相手打者の私生活などに踏み込む方向へと進化した。この戦術は、愛弟子の古田敦也(当時ヤクルト)や達川光男(当時広島)らに引き継がれた。
■ノムラスコープ
解説者時代には、野球中継では初の試みとなる、ストライクゾーンを9分割した「ノムラスコープ」を考案。点差やボールカウントなどから考えられる投手・打者心理の解説や、そこから導かれる配球の読みが評判になる。当然のことながら、膨大な野球の知識と経験を持つ野村氏ならではの試みなので、なかなか追随できる人はいない。
野村氏は戦後初の三冠王など、プレイヤーとしても数多くの実績を持つが、今なお残るこれら作戦やシステムは、プロ野球の偉大な財産といえよう。これからも現役の解説者として、新たな試みを発信してもらいたい。
文=サトウタカシ (さとう・たかし)