個性あふれるドラフト候補選手を徹底解剖する「2015ドラフト候補怪物図鑑」。
新進気鋭の女性ライター・則松(のりまつ)葉子さんが、「炎のストップウォッチャー」を連載中のキビタキビオ氏と、『野球太郎』持木編集長を質問攻めにします。
まずは今夏の甲子園大会を沸かせたオコエ瑠偉選手が登場。持ち前の身体能力の高さについて、インタビューはスタートしました。
ノリマツ(以下ノリ):この夏甲子園を大いに沸かせたオコエ瑠偉選手ですが、最初「関東一高は留学生まで呼んでいるのか! 本気だな!」と勝手に思い込んでいました。
持木:そうそう、彼はお父さんがナイジェリア人のハーフ。見た目は圧倒的に外国人という感じですが。
キビタ:ハーフはいま流行りなんです(笑)。スカウトたちもハーフに注目しています。ダルビッシュ(有/レンジャーズ)みたいなね。
ノリ:ハーフが流行り(笑)。確かに陸上のサニブラウン選手や、相撲でもフィリピンやブラジルのハーフアスリートが出てきています。
持木:日本育ちのハーフ選手は、日本人のマインドを持ちつつ身体能力も高く屈強な肉体を持っている。スカウトも欲しがるわけです。
ノリ:私から見ると「走」「攻」「守」すべてに長けたオールマイティーに見えるのですが、オコエ選手の抜きん出た能力ってどこなんでしょう?
キビタ:それは二塁打や三塁打のときの異常に速い走りですね。183cmと大柄で、足も長く歩幅も広く、ロングランの加速が半端じゃない。長めの距離の中で出すトップスピードの時間が長いわけです。
持木:わかりやすく言うと、陸上競技なら中距離が得意なランナーのような。
キビタ:プロでもバットにボールが当たってから、二塁ベースに到達するまで8秒を切るのが基準タイム。ですが、彼は7秒台。高校生は8秒台が普通で、7秒台はめずらしい。
とは言え、一塁に走るのも普通に速い(笑)。足の速い右バッターでも一塁まで4.1秒、でもオコエ選手は4.0秒台を出しています。
持木:つまりスタートダッシュも速いということです。
ノリ:どっちも速いと!「直線距離を普通に走ったら自分より速い人はいるけれど、野球のグラウンドなら自分が1秒くらい速い」と、オコエ選手が言っている記事を読んだことがあります。
キビタ:実はね、オコエ選手のいる関東一の野球部は足が遅くても速く見せる走りを徹底的に練習しているチームなんです。相手の隙をつく盗塁や進塁、球がレフトかライトどちらに飛んだかの違いで走る最短ルートを研究したり。オコエ選手は力任せに走っているのではなく、スピードや才能におごることもなく「考える走り」をしている一面もあります。
ノリ:実は頭脳派でもある、と!
キビタ:ですね。守備でも相手チームのヒットでランナーが二塁から三塁へ進もうかという時、手を挙げて自分がボールを捕るとハッタリで派手なアピールをし、ランナーの進塁を阻止したことも。誰が見ても捕れないボールでも、オコエ選手の守備範囲の広さは相手も警戒していますから、それを利用して戦略的なこともできる頭脳派なんです。
ノリ:オコエ選手のすごさがわかってきました。弱点なんてあるんですか?
キビタ:強いて言うならバッティングかな。手が長いこともあって、もともとインコースのボールが苦手。ホームランバッターでもないです。
持木:彼はライナーの打球が内野外野を抜けていく、当たりや角度がいいとホームランになるタイプで、放物線を描くホームランではない。去年は相当苦労した内角攻めも、今年は腕をたたむ打ち方を身につけつつあり、だいぶ打てるようになってきました。
キビタ:それが甲子園の興南(沖縄)との試合での、勝ち越しホームランに繋がりましたね。
ノリ:バッティングも進化の過程にあるんですね。
ノリ:ずばり、ドラフト指名は1位なんてことも?
持木&キビタ:あります。1位、もしくは抽選を外しての外れ1位かな。
ノリ:もしお二人がスカウトだとしたら、どのチームに欲しいですか?
キビタ:外野手の足りないヤクルトですね。即戦力にもなりますが、高校生を育てるのがうまい西武なんていうのもおもしろい。
持木:一番必要ではないかと思うのはヤクルト。あと、オリックスにいって駿太・武田(健吾)・オコエと、俊足強肩の外野手が3人揃ったら夢があるなと思います。
キビタ:オコエ選手は実際会うと思った以上に大きく、上半身や胸板の厚さがすごい。ゆくゆくはメジャーも夢ではない選手になるのでは、と期待しています。
才能と努力に加え、見る人の夢も掻き立ててくれるハーフ球児ならではの明るさや、エンターテイナーっぷりもオコエ選手の魅力。今ドラフトでは間違いなく注目されるだろう。そして、指名後のプロでの成長も楽しみな選手だ。
取材・文=則松葉子(のりまつ・ようこ)
ラジオ局勤務後フリーのライターとして美容やカルチャー、広告コピーを中心に執筆中。野球に関してはほぼ新人。春夏の甲子園と奇数月の大相撲を楽しみに生きている。スタイルにこだわらない柔軟なライティングがモットー。
イラスト=横山英史(よこやま・ひでし)
野球を題材にしたイラストを得意とするイラストレーター。スポーツ雑誌のイラストや、メジャーリーグ カンザスシティ・ロイヤルズのクラブハウスに飾られているチーム歴代プレーヤーを描いた作品なども制作。
出演者=キビタキビオ(きびた・きびお)
野球のプレーをストップウオッチで測る記事を連載中。NHKBS1で放送されているプロ野球ドキュメント番組「球辞苑」などに出演するなど、活躍の幅を広げている。
出演者=持木秀仁(もちき・ひでと)
ご存じ、本誌『野球太郎』編集長。今夏は甲子園大会の盛り上がりと相まって、週刊誌やテレビなどの取材を数多く受けた。