その殻を打ち破るために、今季から舵取りを任されたのが金本知憲新監督だ。
「超変革」をスローガンに掲げ、チームカラーの一新をはかった。
春季キャンプからオープン戦にかけて多くの若手選手の名前があがったが、特に注目を集めたのがルーキーの高山俊と3年目の横田慎太郎だ。
明治大で東京六大学リーグの通算安打記録を131に更新し、ドラフト1位で入団した高山は、ドラフト会議直後に受けた手術の影響で春季キャンプは2軍の安芸組で過ごした。
2月下旬、1軍に合流するとオープン戦では14試合に出場。スタメン起用された13試合すべてで安打を記録した。阪神のルーキーとしては1972年の中村勝広以来、44年ぶりに開幕戦でスタメン起用されると、プロ初打席で初安打をマーク。4月3日現在、43打数12安打、打率.279と期待通りの成績を残している。
高山の打球方向を見ると、12安打のうちレフト方向へ6本、センター方向へ1本、ライト方向へ5本。凡打やエラーを含めるとレフト方向へ13本、センター方向へ5本、ライト方向へ17。逆方向への打球も多く、広角に打ち分けているのがわかる。
横田は、昨季まで1軍出場はなかったが、今季はオープン戦で56打数22安打、打率.393。オープン戦の規定打席に達したセ・リーグの選手の中でトップの打率を記録した。4月3日現在、42打数11安打、打率.262を残している。
横田の打球方向を見ると、高山よりもはっきりとした傾向がある。11安打のうちレフト方向へ5本、センター方向へ3本、ライト方向へ3本。凡打を含めると、レフト方向へ20本、センター方向へ8本、ライト方向へ9本と、逆方向へ打球が飛ぶ割合が高山よりも多い。
オープン戦で放った22安打中8安打が内野安打と、俊足を生かすために逆方向への打球を意識しているのが数字の面からもわかる。ただ、26本の凡打のうち11本がフライやライナーの打球で、俊足を生かすためにはもっと打球を転がしていきたい。
オープン戦の終盤から高山、横田で1、2番を組んでいるが、2番といえばつなぎの打撃を求められがちだ。だが、金本監督の中には「つなぎの2番」という意識はない。俊足の横田は、無死一塁で打ちにいっても併殺となる確率はほかの打者を比べて低い。実際、ここまで横田の併殺打はゼロ。犠打も1本も記録しておらず、金本監督が犠打のサインを出したと思う打席も3月31日ヤクルト戦の6打席目くらいだ(結果はバント空振り、ファウルがあり、カウント1−2からショートゴロ)。
高山と横田の共通点は、とにかく振ること。ともに選んだ四球は1つしかなく、出塁率はともに.295と3割に届いていない。初球を振った割合は高山が34.1%、横田は45.5%。昨季のセ・リーグ平均が26.2%ということからも、両選手がいかに初球を振るかがわかるのではないだろうか。
ひとつ気になるのは、横田は開幕から4試合目までは53球のうち2球しか見逃しのストライクがなかったが、その後の5試合では95球中15球とストライクを見逃す回数が増えていること。「待て」のサインが出ている可能性もあるが、振ることを恐れてはいないか心配だ。
出塁率の数字だけを見れば、高山も横田も1、2番打者としては失格かもしれない。しかし、プロの世界で積極的に振ることで自分の存在をアピールしている2人の姿は、どこかモヤモヤしていた阪神の空気を打ち破るために必要だ。高山と横田に引っ張られて、阪神がどういった超変革を見せるか、注目しよう。
文=京都純典(みやこ・すみのり)
1977年、愛知県出身。出版社を経て独立。主に野球のデータに関する取材・執筆を進めている。『アマチュア野球』(日刊スポーツ出版社)、『野球太郎』(廣済堂)などに寄稿。1軍はもちろん、2軍の成績もチェックし、分析している。