2月1日にプロ野球のキャンプが始まった。期待の新人や大物外国人選手、東京オリンピックでの侍ジャパン入りを目指す、チームの顔たちの様子が連日報道されている。
ヤクルトにおいては、浦添の1軍キャンプでは山田哲人や村上宗隆、西都の2軍キャンプでは奥川恭伸がメディアを賑わしている。一方、日本中から注目されている彼らと比べると落ちるものの、ヤクルトファンのなかでは大きく取り上げられている存在がいる。「おっくん」こと奥村展征である。
奥村は2013年ドラフト4位で日大山形高から巨人へと入団する。高校時代は主将を務め、3年夏には甲子園に出場。山形県勢として初の準決勝進出を果たした。その準決勝では高橋光成(西武)擁する前橋育英高に屈したものの、一矢報いる犠飛を放っている。
奥村は巨人入団から1年後の2014年オフ、FA移籍した相川亮二の人的補償としてヤクルトへと移籍。高卒2年目のシーズンからヤクルトのユニフォームに袖を通すことになった。
そんな奥村の1軍デビューは移籍2年目の夏。小雨のぱらつく神宮球場だった。この日は由規(現楽天)が、5年ぶりの復帰登板を果たした試合でもあり、スタンドは球団が配布した紙製の由規ボードで緑に染まっていた。
奥村の出番は由規が降板した後のこと。同じくこの日が1軍初出場だった中島彰吾の代打として打席に入る。ライトスタンドからは初出場に気がついたファンからの拍手や声援が飛んでいたが、由規への歓声とは比べものにならないほどまばらで小さい。結果は二塁ゴロ。見せ場を作ることもできず、ひっそりとベンチに戻っていった。
以降、奥村は1軍での出場機会をそれなりに勝ち取っている。昨シーズンはキャリアハイの74試合に出場。そのうち51試合はスタメンだった。それでもレギュラーを確保するには至っていない。打率.199(165打数33安打)、出塁率.281、長打率.277の成績ではしょうがないところである。打撃面は課題だ。
今年も遊撃のポジションで新加入のエスコバーや廣岡大志、西浦直亨らとしのぎを削っている。奥村はエスコバーのような守備力は備えておらず、廣岡や西浦のようなパンチ力はない。
178センチ、76キロは野球選手としては大きくなく、むしろ小さいと言ってもいいだろう。その体型を見ると、脚が速くスピードを売りにできそうだが、決してそういうわけでもない。キャリアで盗塁は1つだけしかなく、よくいる小柄なスピード型でもないわけだ。
そんな奥村の売りに「明るさ」、そして「元気」がある。大きな声を出し、劣勢でもチームを鼓舞する姿は凛々しい。その姿勢はプレー中にもたびたび現れる。なんでもない場面での凡打でも、一塁へヘッドスライディングを敢行してしまうこともあるほどだ。
駆け抜けのほうが速いとか、ケガのリスクとか、そんなことは奥村にとって野暮なことなのだろう。常に全力。それが、チームメートだけでなくファンの心に響いている。
しかし、この姿勢が今年は変わるかもしれない。このオフシーズンに結婚したからではない。奥村は契約更改後の会見で「ヘッドスライディングもそうなんですけど、守備も走塁も前のめりになってしまう。気持ちが行き過ぎないように」とコメントしたのである。
もう少し冷静になる、という心変わりだろうか。
もちろん、それで元気を失うことはない。春季キャンプ中もロングティーを行っていた嶋基宏に対し、「嶋さんの力はこんなもんじゃない」と大きな声を出し“煽っている”場面も見受けられた。スタンドのファンからは大きな笑い声が。SNSではそのシーンの動画が多く出回っている。
奥村は1995年生まれで今年25歳。
「元気と明るさは変わらず、プレーは冷静に」
あとは打つだけ。
これが実現できれば、レギュラーへの道はグッと近づくはずだ。
文=勝田聡(かつた・さとし)