清宮フィーバーの中、虎視眈々と頂点を狙うDeNAが「大卒即戦力左腕」の系譜を継ぐ好投手を単独1位指名。リーグ史上初の2度目のノーヒットノーランを記録した男は今年、「俺もやれる!」と自信をつけた。
前回、「野球との出合い」
今年の秋季リーグ戦は9月2日に開幕することになっていた。しかも、開幕カードの相手は春の王者である近畿大。勝ち点を奪うには東の力が必要だった。しかし、東がユニバーシアードから帰国したのは開幕3日前の8月30日というハードスケジュール。十分な調整をできず、1回戦の先発を見送ることになった。2回戦で先発した東は近畿大打線を味方の失策による1失点に抑え、完投勝利を飾る。しかし、残りの2試合を落とした立命館大は勝ち点を奪えず、早くも窮地に追い込まれた。
次節で近畿大が勝ち点を落とし、自力優勝の可能性が復活した関西学院大戦で東は3安打完封の快投を見せる。これで勢いに乗るかと思われたが、その後の練習で左ハムストリングを痛めてしまう。次節の京都大戦に先発するが、本来の状態からはほど遠く、初回から2失点。自ら降板を申し出た。
次のカードは侍ジャパン大学代表でともに戦った阪本大樹を擁する関西大戦。東は初回から151キロを記録するなど順調な立ち上がりを見せる。しかし、走塁で1塁まで駆け抜けた時に、まだ完治していないと感じたようだ。さらに左の中指にマメができてしまい、本来の投球が難しい状況になっていた。それでも6回までは変化球中心の投球に切り替え、なんとか無失点で抑えていた。しかし、7回に先頭打者に安打を許した際にマメが潰れ、ここで降板。東を欠いた立命館大は勝ち点を落とし、優勝の可能性が消滅。ラストシーズンに明治神宮大会で投げることは叶わなかった。「今までの野球人生で一番悔いが残る終わり方になってしまった」と言うように、悔しいシーズンとなった。
それでも最終節の同志社大戦は7割の状態ながら変化球で相手を交わす投球で15奪三振完封。その2日後、ドラフト当日に行われた2回戦でもクローザーとして登板して勝利に貢献。いい形で大学野球を締めくくることができた。
故障に苦しんだラストシーズンだったが、それでも防御率0.76と力を見せつけた。中でも突出していたのがK/BBだ。これは「奪三振÷四死球」で算出され、制球力を表す指標の一つである。3.50を超えると優秀とされるが、東はこの秋に奪三振50、四死球2で25.00という驚異的な数値を出した。この指標において、プロで最も優れている上原浩治(カブス)がレッドソックス時代の2013年に記録したキャリアハイの数値が11.22ということからも、すごさがわかるだろう。相手打者のレベルが違うことを考慮しても、東のパフォーマンスは異次元のものだった。
大学最後の試合を終えた東は、立命館大で運命のドラフトを迎えた。野球ではあまり緊張することのない東もこの時ばかりは「自分の鼓動が聞こえるくらいに緊張した」と平常心ではいられなかったようだ。
当初の予想では楽天の単独指名か、外れ1位候補として名前が挙がっていた。ロッテから順番に選手名が読み上げられるが、多くの球団が清宮幸太郎(早稲田実)を指名し、単独で東を指名するかと噂された楽天も清宮を指名した。このまま1回目での指名はないと思われていた矢先、DeNAの指名で東の名前が呼ばれる。会見場内はどよめき、本人も驚きの表情を見せていた。指名直後の会見では「単独指名はないと思っていた」と驚きを隠せなかった。
翌日の指名挨拶でDeNAの吉田孝司編成スカウト部長は「東の指名は当日の朝に決めた」と話した。直前での決断だったようだ。
DeNAには石田健大、今永昇太、?口遥大と若手の先発左腕が揃っており、東にとってライバルは多い。しかし、東は以前から似たタイプの投手がいるチームにいきたいと発言しているだけに、DeNAに入団できたのは大きなプラス材料となりそうだ。「今永さんのストレートのキレとチェンジアップを参考にしたい」と、早くも先輩投手からいいところを吸収したいという意欲を見せている。
後藤監督も「DeNAは若い選手が伸びてきている好チームという印象。そこに交じっていけるのはいいこと」と東のDenA入りを歓迎していた。
DenAのラミレス監督からは「10勝を期待している」というメッセージが送られた。このことからも1年目から先発としての活躍を期待されていることがうかがえる。まずは開幕ローテーション入りを目指し、先発5、6番手を争うことになるだろう。そのためにはキャンプからアピールしていくことが必要になるが、焦りは禁物。自分の投球を見失うことなく実力を発揮することができれば自ずと結果はついてくるはずだ。
最速152キロのストレートや制球力に目がいきがちだが、東の本当のすごさは試合を作る能力の高さだ。ストレートの調子がよくない時は、チェンジアップやスライダー中心の投球に切り替えて凡打の山を築くことができる。自分の状態を冷静に把握して、それに応じた投球ができるので大崩れすることは滅多にない。ファンや首脳陣は安心して見ることができるのではないだろうか。シーズン通して絶好調の状態を維持するのが難しい中で、状態が悪い中でも結果を残せることはプロの世界で戦うにあたって大きなアドバンテージとなるはずだ。
プロでは対戦する打者のレベルが格段に上がるので、簡単に結果を出せないかもしれないが、この1年間で見せた投球を続けられればプロでも十分に通用するはずだ。指名直後の会見で「新人王を目指したい」と宣言したが、持ち味を発揮できれば、決して不可能な目標ではない。石田、今永、?口と続く大卒即戦力左腕の系譜を引き継いでほしい。
(※本稿は2017年11月発売『野球太郎No.025 2017ドラフト総決算&2018大展望号』に掲載された「28選手の野球人生ドキュメント 野球太郎ストーリーズ」から、ライター・馬場遼氏が執筆した記事をリライト、転載したものです。)