怪物1年生・清宮幸太郎を擁する早稲田実(西東京)。高校野球100年&始球式がOB・王貞治氏というメモリアルイヤーに深紅の優勝旗を狙った。
しかし、準決勝で昨秋の明治神宮大会の優勝校・仙台育英(宮城)の前に0対7で完敗。ドラフト候補右腕の佐藤世那を攻め切れず、同じく東京でしのぎを削った関東一(東東京)とともに甲子園を去ることとなった。
この大会、最も注目された清宮にとっての初めての夏もここで終了。甲子園に戻ってくることを誓い、土は持って帰らなかった。
大会前から異例の報道体制が築かれた現代の怪物。期待を裏切らなかった彼の今夏の戦いをまずは西東京大会から振り返ってみたい。
早稲田実の夏初戦は3回戦から。最注目のルーキー・清宮の登場とあって、観衆はなんと3500人、報道陣は26社90人が集まった。
メディア、観客はいきなりの大活躍を期待したが、第1打席、第2打席と続けて四球を選んだあと、第3打席は東大和南の二塁手のジャンプ一番のファインプレーでセカンドライナー。第4打席も変化球に詰まってピッチャーゴロ。
しかし、第5打席には緩い変化球を引きつけ、ショート後ろにポトリと落ちる内野安打で夏初ヒット&初打点。
ヒットこそ生まれたものの、7回裏には自身のエラーもあり、満足な結果とはいかず。不完全燃焼の初戦となった。
ちなみにこの試合では早稲田実の粗さが目立ち、西東京大会では最後の最後まで下馬評が上がらない大きな要因となった。
怪物が早くも爆発したのがこの1戦。第1打席、内角気味のストレートを流して左中間を痛烈に抜くと、続く第2打席では外角球をうまくさばいて今度はレフト線に2打席連続タイムリーを放った。
3打席目はライトフライ、4打席目は四球だったが、先制点となるタイムリーに本人はご満悦。7回コールドで次に駒を進めた。
都立強豪・日野との対戦となった5回戦。報道は連日の大盛り上がりで全国ニュースでも清宮の全打席を放送するほど。この日は日野OBのアンジャッシュ・渡部建も来場し、清宮報道に華を添えた。
6000人の観衆が見守る中、第1打席では真ん中外目のスライダーをリストをうまく返して右中間をぶち抜くと、全力で三塁に到達。その巨体から鈍足と思われがちだが、意外にも“普通”の走力を見せつけた。
1対1で迎えた3回の第2打席では一二塁間をしぶとく抜くタイムリー。5回には今度は二遊間を抜くヒットを放ち、さらには7回にはセンターに犠牲フライ。3対1と早稲田実がリードしたが、試合はここから壮絶なシーソーゲームに。
しかし、6対6で迎えた8回、清宮がセンターを紙一重で越えるタイムリー二塁打を放つと勝負あり…と思われたが、日野が9回表に追いつき、結局、早稲田実は9回サヨナラの薄氷勝利。ドキドキの戦いだったが、その中でも清宮は4安打3打点の活躍で勝負強さを発揮した。
ベスト8となり、上を目指す1戦。しかし、この日の清宮は内角攻めにあい、ヒットは4打席目のセンター前に落とす1本のみ。しかし、1年生にして2死球は最大警戒の証ともいえる。この日の第1打席の凡打も打球速度は速かった。
この日の第4打席では、神宮球場のポール際上段まで運ぶ特大ファウルも。1回表2死一二塁ではボールをファンブルし、さらにボールを拾おうとしたが手に付かないドタバタ守備もあったが、オーバーランのランナーを見逃さずアウトに。“エラー即挽回”のプレーもある意味、スター性にあふれていた。
全国レベルの超強豪・日大三との戦いとなった準決勝。1回の第1打席は2死三塁で4球続けてボールの四球。
続く0対0の3回2死一三塁の第2打席では、日大三ベンチが伝令を送る厳戒態勢。バットを担いで威圧感抜群に登場した清宮だったが、雰囲気そのままに外角球を右中間フェンスにぶち当てる超高校級打。強靭な手首をここでも見せつけ、これが先制&決勝点となる2点タイムリーとなった。
第3打席、第4打席では日大三の2年生右腕・小谷野楽夕を前に2打席空振り三振。小谷野も来年にはプロが食指を伸ばす存在になっているだろう。
粗さを見せながらもついに決勝までやってきた早稲田実。迎えるはドラフト候補右腕・勝俣翔貴擁する東海大菅生。勝俣のマックス144キロの直球と内外角の厳しいところを突けるコントロールにどう対応するか。ちなみに昨秋の神宮大会で東海大菅生は全国ベスト4。冬を越えさらに脂が乗っている状態だ。
注目の清宮は、その勝俣に第1打席は一塁ライナー、第2打席は空振り三振と打ち取られる。第3打席は四球で出塁したものの、7回終了時点でスコアは0対5。敗色が濃くなってきた。
そんな状況で迎えた8回、0死一二塁の場面。ここから反撃したいところだったが、清宮はセカンドゴロできっかけを作れず。しかし、続く早稲田実打線が大爆発。打者一巡の猛攻で6対5と逆転すると、この回、2度目となる清宮は2死満塁からライト前にタイムリーを放ち、「やっぱり清宮か!」と場内を歓喜とため息に包んだ。