素人目に視力が重要になりそうなのは打者だ。しかし、プロ野球選手に必要なのは純粋な視力ではなく、“動体視力”だというイメージは強い。
その根拠として、巷でよく引用されるのは、「イチローは視力0.4しかない」というインフォメーションだ。
実は筆者も「イチロー=視力があまりよくない」という印象を持っていた。オフもメガネを掛けているような……。
しかし、これは大間違いだった。イチローの視力は右1.0、左1.2。プライベートのメガネはなんとダテ眼鏡だった……!
それでも本人は「目はあまりよくない」と語る。医師の勧めでコンタクトを着用してプレーした年もあるほどだ。
だが、イチローはこうも語っている。
「視力は野球にはなんにも反映されない」
目を使ってボールを見ようとすれば、体が緊張してしまう。実は超一流選手でも視力自体にはそこまで依存していないのだ。
現にそれを証明しているのは、昨年トリプルスリーを達成し、今季も絶好調の山田哲人(ヤクルト)。山田は右0.7、左0.4だが、コンタクトは「合わない」と着用せず、裸眼でプレーしている。
「ボールをよく見ろ!」
小さい頃にこんな言葉を耳にした人も多いだろう。しかし、中学野球の指導現場などでは、ボールを見ようとすればするほど打てなくなることは今では常識。
実はミート向上のポイントは周辺視野。エンドランなどの練習で走者を視野に入れながら、打ち込んでいくことでミートが向上するという指導者も多い。
また、多くのプロ野球選手は“目付け”の感覚も大事にしている。投手のリリースポイントやインコース、アウトコースなど、個々によってさまざまなところに焦点を置き、経験則をスイングに反映させているのだ。
確かに動体視力も重要だが、プロ野球選手にとって必要なのは“目の使い方”だという声も多い。
それでも「サイン、ボールが見えない」など支障が出てしまうと眼鏡やコンタクトの着用は避けられない。「視力が悪くても問題ない」というのが今の野球界の常識だが、見えるに越したことはないだろう。
しかし、視力に関する驚愕エピソードを持つ選手を発見した。それがオコエ瑠偉だ。視力はなんと推定3.0以上。1.2の指標を2倍の距離で正確に言い当て、1.5の2倍もほぼ正解。脅威の視力の持ち主だ。
「センターの守備位置から、キャッチャーの表情が見える」
つまり、キャッチャーのサインも見えるということだろう。オコエはよく「ポジショニングがうまい」「一歩目が速い」と評されるが、それ可能にする洞察は抜群の視力によって生み出されているともいえる。
ツイッター、SNSに勤しむ高校球児やプロ野球選手も多いが、やはり野球選手にとって目は命。スマホのやりすぎには注意したい。
文=落合初春(おちあい・もとはる)