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【チームカメラマンというお仕事】読売巨人軍広報部・鈴木一幸氏 スペシャルインタビュー後編

取材・文=山本貴政

【チームカメラマンというお仕事】読売巨人軍広報部・鈴木一幸氏 スペシャルインタビュー後編
 プロ野球選手になれなくてもプロ野球に関わりたい。そんな思いを叶える仕事は、見回してみると実はたくさんある。週刊野球太郎ではそんな「プロ野球に関わるお仕事」に携わる人たちを直撃。2回連載の後編となる今回、登場するのは読売巨人軍の広報部に所属する“チームカメラマン”鈴木一幸さんだ。

◆インタビュー前編記事はこちら

 選手と近い距離にいるチームカメラマンの仕事は、スポーツ新聞や野球雑誌のカメラマンとはどこが違うのか? そもそもどうしたらなれるのか? 広報部としての役割は? 一日のスケジュールは? そんな疑問に鈴木さんのキャリアを含めて答えてもらうとともに、鈴木さんの“プロフェッショナル”なこだわりと撮影テクニック、ファインダー越しに見たプロ野球選手のすごさ、そして望遠レンズを抱えて球場にかけつける“野球女子”への撮影アドバイス……
と、気になることを聞いてみた。

フォームがまったく一緒。ファインダー越しにみるプロ野球選手のすごさ


 先週公開された前編ではチームカメラマンという仕事の在り方について聞いた。後編は鈴木さんにファインダー越しだからこそよりわかるプロ野球選手のすごさ、シャッターポイントなどのテクニックからうかがおう。

「すごいなと思うのはフォームがまったく一緒なところです。たとえばピッチャーなら足をつく位置も、腕も振り方も一緒。それはバッターもそうで、トップを作ってからインパクトまでも、ほぼ同じ位置で決まっています」

 一流選手はフォームが崩れないという意味で、「再現性が高い」という褒め言葉が使われるが、その再現性はキャッチボールでも同じだと言う。ただ、同じフォームならば撮りやすいのかと言うと、それはまた別の話。「へんにリズムが合ってしまうと、同じ写真しか撮れなくなる」ので、そこはカメラマン泣かせの難儀な点でもあるらしい。

 では同じフォームのなかで狙っているシャッターポイントは? 「連写すればどのタイミングでも欲しい瞬間が撮れるだろう」と想像する方もいるかもしれないが、これまたそんなに単純なものではない。

「狙っているのは、ピッチャーならばリリースポイント、バッターならばインパクトの瞬間。ただ、テークバックやバットを振り出した瞬間から連射していても、リリースポイント、インパクトの瞬間は撮れないんです。だから1コマ目を押すのは、欲しい瞬間に近いところ……ほぼ、その瞬間です。何枚連写しようとも最終的に欲しいのは1枚なので、そこに合わせないと」

 早くから連射して、欲しい瞬間を写せるわけではないのだ。それは(スーパースロー撮影は別として)シャッタースピードを早くした通常のビデオメラで撮影してコマを止めても同じ。欲しい瞬間に当たっているものはないという。鈴木さんは「欲しい瞬間は狙って撮るもの」だと語った。

 ほかの狙いどころはと聞くと「ピッチャーで言うと、テークバックや投げ終わりの表情、帽子を飛ばす姿とかカッコいいところはそれぞれなので、選手の個性が伝わるポイントを狙っています」という。

 そしてプロフェッショナルであるが故の意外なカメラマン泣かせのエピソードも聞かせてくれた。鈴木さんは野球に励んでいた息子さんのプレー写真をよく撮っていたのだが……。

「小・中学生の子どもたちを撮るときもリリースポイント、インパクトに合わせてシャッターを押すタイミングを調整するんですけど、まだまだ未熟な彼らの『欲しい瞬間』をちゃんと撮れるようになると、今度は逆にプロの選手を撮るときのタイミングがずれて、撮れなくなってしまうんです。あれは困りましたね(笑)」

 この微笑ましいエピソードからも、「一定水準=ぶれないフォームが当たり前」というプロ野球選手のすごさが伝わってくる。鈴木さんは思い出の1枚として、小笠原道大(現・中日2軍監督)が節目の記録を達成したときのバッティングの写真を挙げてくれたが、その写真を手渡したとき「俺の写真っていつも同じになっちゃうでしょ」と笑いながら声をかけられたという。

 ただ、フォームが同じとはいえ、いい投手ほど実は狙うべきリリースポイントが撮れないという。

「いいピッチャーはとにかくリリースポイントに合わないんです。どんなに剛速球でもイチ、ニ、サンのリズムで投げるだけなら、同じリズムでバッターに打たれます。そこで、バッターとの駆け引きもあるし、タイミングとかを微妙に変えているんでしょうけど……でも、その秘密はわかりません。だから、こちらはイチ、ニ、サンのリズムに一旦あわせて『今日はちょっと早めに押してみよう』とかタイミングを調整しています」

 鈴木さんが接したなかで特に撮りづらさを感じたのは、かつては桑田真澄、工藤公康、今では菅野智之……。いずれも球史に残る大投手。一流のすごさの一旦が見える。

鈴木さんが撮影した菅野智之の投球写真。鈴木さんが撮影した菅野智之の投球写真。
「いい投手ほどリリースポイントを撮りにくい」という
鈴木さんの言葉とともにこの写真を見るとスポーツ写真の奥深さがより感じられる。

何かが起きそうな気配への備えと野球女子のための撮影術


 鈴木さんはファインダー越しにオーラを感じる現役選手としても菅野の名前を挙げたが、オーラという意味では、「サヨナラヒットを打ちそうだな」「大記録を達成しようだな」という雰囲気も選手からひしひしと伝わってくるという。昨季だと、中日戦(7月27日)で山口俊が達成したノーヒットノーラン、村田修一の引退セレモニーが行われたDeNA戦(9月28日)で長野久義が放ったサヨナラホームランがそのケースに当たる。

 通常、各球団のチームカメラマンは1人か2人体制。ジャイアンツの体制も多くて2人。新聞社のカメラマンよりも人員が少ない。複数の場所から構図を押さえることができない上に、基本的には自分一人で絵をフィニッシュさせなければならない。だから「何かが起こりそうな雰囲気が漂うレアケースのときは、どう対応すべきかと頭のなかがぐるぐるとまわる」と言う。そして「いざ」という瞬間に備えて準備をする。

「撮影場所が自分の持ち場だけなので、たとえば喜び合っているシーンなら引きで撮っておいて、後から縦のトリミングで対応できるようにすることもあります。あと、サヨナラヒットのときは喜ぶランナーを撮るか、それともバッターを撮るか、ベンチから飛び出すナインとランナーが抱き合うシーンを撮るか思案しています。もちろんバッターは押さえないといけないんですけど、普通のヒットでも喜んでいるのは変わらない。だから、何か特別な起こったことがわかるプラスアルファを絵に加えないといけない。もうヒリヒリしますね」

 少ない人員で他メディアと遜色のない写真が撮れたときは本当に嬉しいという。これはチームカメラマンならではの醍醐味だろう。

 撮影テクニック、心構えの話に進んだところでカメラを抱えた野球女子へのアドバイスも尋ねてみた。初心者ならば「初期設定のプログラムではなく、シャッタースピードや露出を変えてみて、どんどんマニュアルで試してみるのが上達の早道。カメラは壊れませんから」とのこと。では、大きな望遠レンズなどプロ顔負けの機材を持ってお気に入りの選手を追いかけている上級者へは……。まず、構図の選び方について話をしてくれた。

「応援席の逆サイド、正面からベンチのなかを写せる席から撮ってみるのがおすすめです。あの選手同士はいつも隣同士で座っているとか、ハイタッチのようにいろんな儀式があるのがわかりますし、ベンチのなかで喜び合っているシーンを写すことができますから」

 と言いつつ、「けっこう皆さん、上手いんですよね」と鈴木さんは苦笑い。では、そんな上級者の気づきとなる「プロだからやっていることは?」と続けて聞いてみた。「撮った写真を人に見せる」というプロセスを踏まえて、こう教えてくれた。

「あとは撮った写真を、思い切ってトリミングしてみることですかね。写真の上手い方がネット上にアップしている写真を見ると、全身が写っている写真が多いんです。でも、写り方や状況によっては表情だけの方がよかったり、上半身の力感が伝わる構図の方がいいケースもあります」

 このように写真の見せ方を考えると、撮り方が変わってくるという。つまり、大きく寄ったトリミングをしてみると「ピントの甘さ」を知ることができる。ならば「もっとシャープに撮らないといけない」と工夫するようになるというわけだ。上級者の皆さん、ぜひお試しを。

 ほかには「その日ごとにテーマを持って撮影してみる」「わざとスローシャッターで撮影してみる」と付け加えてくれた。なおスローシャッターで撮影した際、選手の動きが流れた絵になっていても、目は一点で止まっているという。これは冒頭で述べた「プロの選手はフォームが同じ」というすごみにつながる話だと鈴木さんは言った。

【チームカメラマンというお仕事】読売巨人軍広報部・鈴木一幸氏 スペシャルインタビュー後編

今年はチームカメラマンにしか撮れない写真を増やしたい


 人員が少ない故の現場での苦労もあるが、チームカメラマンはチームの一員であるが故に得られる喜びも多い。試合直後の素を出している舞台裏を見られるのも、チームカメラマンの特権だ。ただ、プライベートな空間なので、そこでの撮影は控えているという。しかし、感情を仲間として共有できるのは、野球に関わる仕事をしたいと思っている方からすると、たまらないシチュエーションだろう。

 最後にチームカメラマンとしてこれからチャレンジしたいことを聞いてみた。

「毎年、『去年よかったら今年もこれでいい』とは考えずに、何か新しいことに挑戦しようとリセットしています。今年は、練習中のオフショットなど、嫌われない範囲でギリギリまで近づいて撮る写真を意図的に増やそうと思っています。これはチームカメラマンした撮れない写真ですから」

 そして「阿部慎之助選手の400号のホームランをばっちり撮りたいですね」と締めた。阿部は節目の記録まであと1本塁打。記録達成は目前だ。ファインダー越しに「何かが起こりそう雰囲気」が漂ったとき、鈴木さんは頭のなかをぐるぐる回転させながら備え、ベストショットを写すことだろう。

 前後編にわたってお届けした「チームカメラマンというお仕事」。前編では、カメラマンの1日の過ごし方、「何を望まれているのかを理解できないといけない」という広報的スタンス、報道でもある一方でファンや野球少年たち喜ばせる写真を撮るための意識の持ち方、そして「スポーツの写真を撮りたい」と思っていた鈴木さんが紆余曲折を経てチームカメラマンにたどり着いたドラマを語ってもらった。後編から読んだ方はぜひ前編も目を通してほしい。

 プロ野球選手にはなれずとも、野球のそばで仕事がしたい。そんな方に向けてこれからも「野球に関わるお仕事」を紹介していきたい。まず、写真が好きな方なら、チームカメラマンも視野に入れてみてはいかがだろうか。

■プロフィール
鈴木一幸(すずき・かずゆき)
1972年6月13日生まれ。東京都中央区出身。日本大学芸術学部写真学科卒業。
2000年から巨人軍公式サイトの仕事に携わり、2007年から巨人軍のチームカメラマンとなり現在に至る。

取材・文=山本貴政(やまもと・たかまさ)

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