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大会最多記録更新ペースでホームラン量産中。高校野球で金属バットを使うわけとは?

大会最多記録更新ペースでホームラン量産中。高校野球で金属バットを使うわけとは?

 甲子園の常連、明徳義塾(高知)の馬淵史郎監督も「びっくりするほど多い」と驚嘆する現象が、今年の夏の甲子園で起きている。

 出場全49代表が出揃った14日の第7日までに出たホームランの数は実に37本。この時点で、早くも昨夏の大会通算本塁打数に並んでしまった。このペースを維持すると、2006年大会で生まれた過去最多記録、1大会60本を超える“68本ペース”だ。

 今大会は2回戦までで150キロ超えの投手がいないことからも、打高投低、といわれている。ただ、近年、高校球児のパワーアップ、そして打撃技術の向上には目を見張るものがあるだけに、その結果が端的に出ている、という見方をしてもいいのではないだろうか。

なぜ、高校野球では金属バットがOKなのか!?


 一方で、こうした数字を受け、「そもそも、なぜ高校野球は金属バットを使っているのか?」「大会を盛り上げるために打球が飛ぶ仕掛けをしているのでは?」といった野暮な声が聞こえることもある。なるほど、ホームラン量産は金属バットの性能のおかげ、ということだろうか? もっと素直に高校野球のレベルアップを喜んでもいいと思うのだが。

 また、ホームラン数の伸び以前に、「高校以降は木のバットになるのだから、高校までしか使えない金属バットは、その後の成長の弊害」といった声も耳にすることがある。

 ただ、このような声は、野球を「エリート層のもの」と思い込みすぎてはいないだろうか。甲子園でホームランを打つような選手、ましてやプロや大学でも野球を続ける選手は、あくまでもほんの一握り。甲子園に出場できた49代表の後ろには、約4000校のいわゆる“一般の高校生”がいる。金属バットの是非は、ピラミッドの頂点を見て叫ぶのではなく、その下の“圧倒的多数”にとって必要か否か、で判断するべきことのはずなのだ。

消耗の激しい木製バットしか使えないのなら、部の存続さえ危うくなる


 甲子園の歴史を端的にまとめた『マンモス賛歌』(神戸新聞阪神総局編)という本には、金属バット導入に至る経緯が記されている。少し長いが引用したい。

《アルミ製の金属バットが甲子園に登場したのは、昭和四十九年夏だった。木製バットの耐久性は三千〜四千球だが、金属バットは平均一万球強の球が打てる。折しも原木不足から木製バットの値段も急騰。野球部予算の少ない学校からは「消耗の激しい木製バットしか使えないのなら、部の存続さえ危うくなる」との声も。四十八年六月に来日したハワイチームが金属バットを用い、国内では練習用として使用していた高校もあったことなどから、高野連は大会での採用に踏み切った》

 なにかとお金がかかるスポーツである野球。その状況において、全国の“一般的な”高校野球部が少ない部費のなかで賄えるように、という主旨で金属バットの導入が進んだわけだ。決して、ホームランが多くなれば高校野球が盛り上がるから、という視点などではないのだ。


金属バット解禁後も木製バットにこだわった“職人”


 ただ、導入当初は金属バットを購入すること自体が野球部の負担になるケースも多く、木製バットで出場する選手も少なくなかった。そのひとりが、導入初年度にあたる昭和49年、1974年の夏の甲子園を制した銚子商の2年生4番、篠塚利夫(現・和典)選手だ。

 もっとも、木製にこだわったのは“費用面”以外の要素が大きかった。当時から、将来はプロで活躍したい、と考えていた篠塚選手。「木のしなりを使いながらバットにボールを乗せる感覚。そういう打撃が金属では全くできなかった」として、あくまでも木製にこだわり、ラッキーゾーンがあっとはいえ、甲子園で2本塁打を放ったのだからさすがのひと言。そして、のちにプロで首位打者にも輝く職人気質が高校時代から備わっていたことに驚かされるばかりだ。

 ちなみに、この夏の甲子園が終わったあとに開催されるU-18ワールドカップは、全選手が木製バットで出場する。金僕バットから木製バットへ、という対応能力が求められることこそが、一流選手の証、と思ってぜひとも頑張ってもらいたい。


文=オグマナオト

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