「岩貞に勝ちをつけてやりたい!」
毎試合、野手陣はそう思い打席に立っているに違いない。先発6番目の座をゲットし、安定感ある投球をみせている期待のサウスポー・岩貞祐太だ。
ここまで勝ち星は2つしかないものの、内容としては満足のいくものだろう。4月29日の登板までの5試合を終えて、防御率0.79と昨年までにはない安定感を見せている。
岩貞は、熊本・必由館高から横浜商科大へ進み、2013年ドラフト1位で入団するも、昨年までの1軍登板では1年1勝止まり、故障等もあってファームとの往復を余儀なくされていた。
そんな岩貞が結果を残したのが、昨年末の台湾でのウインターリーグだった。5試合に登板して、2勝0敗、17イニングで奪三振27、防御率0.53で、投手部門のMVPを獲得した。
岩貞がレベルアップした大きな要因に、能見篤史との合同自主トレが挙げられる。台湾遠征前、目標に掲げてきた先輩左腕の能見に、合同自主トレを直訴して実現したのだ。
能見といえば、ストレートと同じフォームから繰り出されるフォークボールが最大の武器であった。全盛期の2012年には奪三振王に輝いた能見。自らが述べるように、年齢とともに、フォークをストレートの軌道に見せることが難しくなったという。
若い岩貞が目指すべきところとは、まさにこの部分。岩貞の今季ここまでの奪三振数46(4月30日時点でリーグトップの奪三振数)は、能見の教えがあってこその結果であろう。
いくら直訴されたとはいえ、チームを強くするために、能見がチーム内競争のライバルでもある岩貞に託したものは大きく、今年の阪神がチーム一丸となって戦っていることを象徴するエピソードでもある。
岩貞が生まれ育った故郷・熊本に最初に地震が起こったのは4月14日。その2日後には、より大きなマグニチュード7.3が熊本、大分を襲った。岩貞の家族や親戚も甚大な被害を受けたという。
地震以後、熊本を故郷にもつアスリートたちの活躍が報道されるなか、岩貞自身も故郷のため、勝ちたい思いでいっぱいであることは言うまでもない。
ドラフト1位として将来を期待され、3年目にして頭角を現したサウスポーが、能見にかわる将来の左のエースとして成長していくことを期待したい。
文=まろ麻呂
企業コンサルタントに携わった経験を活かし、子供のころから愛してやまない野球を、鋭い視点と深い洞察力で見つめる。「野球をよりわかりやすく、より面白く観るには!」をモットーに、日々書き綴っている。