通常、プロ野球の試合であれば、例えば東京ドームでの巨人対阪神戦なら、イニングの表の阪神攻撃時は阪神の応援団がレフトスタンドから声援を送り、裏になれば巨人ファンが声援を送る。対戦カードによって強弱はあっても、その応援が鳴り止むことはない。
しかしWBCでは、日本の攻撃時は球場全体で応援し、相手の攻撃時はほぼ静寂という、普段とは異質の状況となっている。守備についている侍ジャパンメンバーには、この静けさに違和感を覚える選手も多いようだ。
1次ラウンドのオーストラリア戦ではこんな現象も起こった。
5回裏、先発の菅野智之(巨人)が球数制限のため1死一、二塁で降板。あとを継いだ岡田俊哉(中日)は、ワイルドピッチを含む四球で1死満塁とさらなるピンチを迎える。
次の打者にも2球続けて明らかなボール。ストライクが入らない。飄々と投げる普段の岡田とは違って、あきらかに追い詰められた表情がうかがえた。
ここで坂本勇人(巨人)、松田宣浩(ソフトバンク)ら内野陣が駆け寄り、岡田に声をかける。さらに、捕手の小林誠司(巨人)も、タイムを取ってマウンドへ。グラウンドからは大きな声援がさみだれ的に飛び交う。
とくに、子どもたちの甲高い声がよく響いた。「がんばれ〜!」「岡田〜!」。そこは、まさに往年のドリフターズのコントさながら「志村、うしろ〜!」状態となっていた。声援が届いたか、岡田は次の投球で内野ゴロゲッツーに切って取り、ピンチを脱したのだった。
強化試合は打撃の調子がイマイチで、本番では控えに回る可能性も囁かれていた松田宣浩(ソフトバンク)。しかし守備の安定感を買われて、開幕ゲームのキューバ戦からスタメンでの起用となった。
それを意気に感じたか、松田の打棒が爆発。センター前ヒットを2本重ねたあと、5回裏に回ってきた3打席目は、1死一、二塁から、2球目の変化球を完璧にとらえレフトスタンド中段へのダメ押し3ラン。
ダイヤモンドを1周してベンチ前に戻り、ナインとハイタッチを終えたベンチ前では、いつものルーティーンで「熱男〜!!」と絶叫。
昨季まではおなじみだった松田のこの雄叫び。しかし、WBCでは外国人チームとの試合でもあり、相手を変に刺激しかねないとの思いから、叫ぶかどうか迷っていたという。それでも、ここ一番で会心の一発を打てたことで、興奮のあまり、マン振りの「熱男〜!!」が出てしまった。
松田が所属するソフトバンクのキャッチフレーズは、今季から「1(ワン)ダホー!」となる。それにともなって、松田の雄叫びもチェンジ予定。もしかして、あれがラスト「熱男〜!!」だったかも!?
侍ジャパンの攻撃中は、三塁のコーチャーズボックスに立つ大西崇之外野守備・走塁コーチ。この大西コーチの行動範囲の広さがハンパない。
ベンチからのサインを選手に伝えるのは、大西コーチの大きな役目のひとつ。このブロックサインを出すときに、1歩、2歩とバッターの方に詰め寄り、場合によっては三本間の中間地点あたりまで出張ってくるのだ。
ベースコーチは、コーチスボックスの枠のなかにいるのが原則だが、試合の邪魔にならなければ、また審判の注意や相手チームの抗議がなければ、はみ出すことも黙認される。大事な場面では、ぜひ大西コーチのパフォーマンス(?)にもご注目。
文=藤山剣(ふじやま・けん)