「夢は黒田、マエケン、大竹、野村という先発4枚が揃うこと」盲目のスーダン人、モハメド・オマル・アブディンさんが語る「愛するわが広島カープ」
ひょんなことから19歳で単身日本にやってきた盲目のスーダン人、モハメド・オマル・アブディンさん。言葉も文化も初めて尽くしのなか、様々なピンチに見舞われながらも、日本語、点字、鍼灸の専門用語、オヤジギャグを使いこなすまでになったエピソードを、異文化体験手記『わが盲想』(ポプラ社)として上梓。大きな反響を集めています。
このアブディンさん、野球のない国・スーダン出身にも関わらず、高校野球と広島東洋カープの大ファン。その知識量は野球太郎スタッフも思わず唸ってしまうほど。そこで今週と来週の2回に渡って、スーダン人から見た「日本の不思議な野球文化」について語っていただきます。前編は、「愛するわが広島カープ」についてです。
【勘違いから始まったカープ愛】
(『野球太郎No.005』を手にして)ナニコレぇ!? 雑誌の厚さじゃないでしょ(笑)。すごいですねー。表紙は誰ですか……松井裕樹(桐光学園)? ハイハイ、22奪三振の彼ですよね。でも、負けたら三振も意味ないですよね。
僕はむしろ、浦和学院の小島和哉投手が好きです。彼のような粘り強いピッチャーが、わが広島カープには必要なんです。カープのためにもいい選手の情報を仕入れなきゃいけないから、高校球児のこと、もっと詳しく知りたいですね!
高校野球は、最後の最後まで勝敗の行方がわからないところが面白いですね。特に私は、「この選手、カープに来てくれないかなぁ」という観点から、いつもラジオ中継を聞いています。
カープを好きになったキッカケですか? 実は、間違って応援しちゃったのが始まりなんです。ある時、ラジオで流れていたプロ野球中継がたまたま広島戦で、「へぇ、広島っていうチームがあるんだ」と興味を覚えました。外国人って、やっぱり「HIROSHIMA」には反応しちゃうんですよ。
そして、たまたまその試合で、広島が快勝したんです。それで僕は、広島というチームは強いんだ! と勝手に勘違いしてしまって……。まさか、こんなにも弱いチームだとは思いもしませんでした(笑)。でも僕は、好きになった以上は一途ですから!
【広島のドラフト戦略はおかしい!】
もし僕が次に本を出す機会があるなら、「どうすればカープはCSに出られるか」というテーマで書いてみたいですね。カープファンの最大の問題点は、みんな「これでいい」と現状に満足してしまっていること。とんでもないですよ! やるからには優勝を目指さなくちゃ駄目です!
それだけに、やっぱりドラフトは気になりますね。カープのドラフト戦略、おかしいですよ。どうかしてますよ! 僕、一度でいいからカープのスカウトの人と話がしてみたいんです。なんであんな選手を獲ったの? とか聞いてみたい(笑)。『野球太郎』さん、ぜひ紹介してください。
広島に一番必要な選手は、バッティングのいいピッチャーですよね。自分で打って、自分で投げて勝つ! みたいな。大谷選手(翔平/日本ハム)のように「二刀流」までいかなくてもいいので、自分の投げた試合では打席でもちゃんと頑張る、っていうね。マエケン(前田健太)もバッティングはけっこういいんですよ。だから勝てるんじゃないかなって思うんです。昔の高橋建(元広島ほか)も、けっこうホームランを打っていましたからね。あ、ちなみに高橋建は、ラジオの解説がすっごく冷めてるんですよ。「カープ愛」が全然ないですね(笑)。
【夢は黒田、マエケン、大竹、野村】
すみません、脱線しちゃいました。ピッチャーに関して言えば、三振でアウトがとれるピッチャーが欲しいですね。ゴロになると、堂林(翔太)がちゃんと捕れるかどうかわからないから(笑)。あ、でも、最近の堂林は守備がうまくなってきましたよね。その代わり、バッティングが駄目になっちゃいましたけど。やっぱり、エラーをした罪悪感で打っていたと思うんですよね……あ、また脱線しちゃった(笑)。
あと、今のカープにはいいキャッチャーも必要です。僕に言われたくないでしょうが、もう、目が悪いんじゃないかってくらいパスボールが多いから(笑)。だから、次のドラフトではいいキャッチャーを獲って欲しいですね。今年だったら、大阪桐蔭の森友哉捕手! 彼はバッティングもいいですから。でも、彼くらいビックネームになっちゃうと、カープには来てくれないのかなぁ。
僕の夢は、黒田(博樹)がヤンキースから帰ってきて、黒田、マエケン、大竹(寛)、野村(祐輔)という先発4枚が揃うこと。一回は実現して欲しいですね。ただ、黒田が戻って来る頃にはマエケンがメジャーに行ってしまうかも……複雑ですね。でも、もしもFAで巨人に取られちゃうようなことがあればそっちのほうがイヤなので、どうせ出て行くのであればメジャーに行って欲しいんですけど。
いずれにせよ、僕がスーダンに戻る前に、一度でいいからカープが優勝するところを見届けたいです。
■ プロフィール
モハメド・オマル・アブディン/1978年、スーダンの首都ハルツームに生まれる。生まれた時から弱視で、12歳の時に視力を失う。19歳の時、視覚障害者を支援する団体の招きで来日、福井の盲学校で点字や鍼灸を学ぶ。その後、ふるさとスーダンの平和を築くための学問を学びたいとの痛切な思いから、日本の財団から奨学金を受け、東京外語大大学院で研究者となる。
犠牲者200万人、2005年まで20年に及んだスーダンの内戦の歴史を検証しつつ、2011年の南部独立後のスーダンを見守り、祖国平和のために発言を続ける。ブラインドサッカーの選手としても活躍しており、『たまハッサーズ』のストライカーとして日本選手権で優勝を3回経験している。ツイッター/
@Abdinkun
文=オグマナオト/1977年生まれ、福島県出身。広告会社勤務の後、フリーライターに転身。
「エキレビ!」では野球関連本やスポーツ漫画の書評などスポーツネタを中心に執筆中。また
「幻冬舎WEBマガジン」で実況アナウンサーへのインタビュー企画を連載するなど、各種媒体にもインタビュー記事を寄稿している。ツイッター/
@oguman1977
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