この「ワールドシリーズ・アドバンテージ」の規定は、2002年のオールスターゲームにおいて、延長11回の末、7対7の引き分けに終わったことがファンから不評だったことをキッカケに、翌年1月のオーナー会議で満場一致にて採択されたもの。2003年から2016年まで、真剣度の高いオールスターに変貌を遂げるキッカケとなった。
このように「スター同士の邂逅だからこそ真剣勝負が見たい」という声がある一方で、「いやいや、夢の球“宴”なんだからお祭り色をもっと打ち出すべき」というファンの声があるのは、日本でもアメリカでも共通項。果たして、「ワールドシリーズ・アドバンテージ」規定の廃止がMLBオールスターゲームの行方をどう変えていくのかは、しっかり注視したい点だ。
余談だが、アメリカ・プロバスケットボール(NBA)の今季のオールスターゲームは、192対182というとんでもないハイスコアゲームだった。ケガを恐れてか守備の意識が薄く、ボールの競り合いもない大味なシュート合戦に終始し、不満を抱くファンも相当数に。その結果、NBAコミッショナーが「オールスターを変えていく」「来年から変わると約束する」といったコメントを発表する事態となった。
オールスターゲームはどうあるべきか、というのは洋の東西、競技の枠を超えたスポーツ界全体のテーマといえるのかもしれない。
さて、話を野球のオールスターゲームに戻そう。もっと真剣勝負をするべきだ、という議論のきっかけが2002年のオールスターゲームにおける「延長11回7対7の引き分け」だった、というのは上述した通り。
だが、日本のオールスターゲームでは過去にもっともっとすごい延長ゲームがあったことをご存じだろうか。そのゲームが、1952年、西宮球場で開催されたオールスターゲーム第1戦。なんと延長21回まで試合が続いたのだ。オールスターの意義と歴史を考察する上でも、改めてこの一戦を振り返ってみたい。
かつてあった「東西対抗戦」に代わるものとして、現行のセ・パ対決形式のオールスターゲームが日本で誕生したのが1951年のこと。つまり1952年は、第2回オールスターゲーム。セ・パに分かれたばかりの頃だったこともあって、ライバル意識は今以上に激しかった時代だ。
先発は、セ・リーグがこの年、最多勝投手となる別所毅彦(巨人)。パ・リーグは、こちらもこの年、最優秀防御率のタイトルを獲得することになる袖木進(南海)。両リーグのエース対決で3回までスコアにはゼロが並んだ。
先発両名がマウンドを降りると、4回表にセ・リーグが4本のシングルヒットを集め、2点を先制(ちなみに打ったのは、2番・千葉茂、3番・岩本義行、4番・川上哲治、5番・藤村富美男という、全員がのちに野球殿堂入りを果たす豪華なメンバーだった)。
一方のパ・リーグも6回裏、それまで好投を見せていたセ・リーグ2番手、若干18歳の金田正一から2点を返し、同点に。そしてここから、長い長い「ゼロ行進」がはじまる。なんと7回から延長21回までの15イニング、両リーグあわせて30個の「0」がスコアに刻まれたからだ。
14時06分に始まった試合が終わったのは18時36分。このとき、西宮球場にはまだ照明灯がなかったための「日没引き分け」で、4時間30分におよぶ死闘は幕を閉じたわけだ。
試合後、「もう何も話したくない。勘弁して」と語ったのは青バットの大下弘(西鉄)。「疲れた、のひと言。しんどい」と語ったのは赤バットの川上哲治(巨人)。だがこのコメントこそが、真剣勝負の証左だった、といえるのではないだろうか。
ちなみに1日空けて、7月5日に後楽園球場で行われた第2戦は、8対1でパ・リーグが圧勝。試合時間はわずか1時間55分だった。
さて、今年のプロ野球オールスターゲームは一体どんな展開になるのか。注目は、4年ぶりの出場となる西武のエース菊池雄星対セ・リーグの4番候補、DeNAの筒香嘉智の同級生対決ではないだろうか。
高校3年の春、公式戦ではなく練習試合で対戦したこの両雄。直前のセンバツで準優勝を果たした花巻東高・菊池雄星から特大ホームランを放ち、スカウトからの評価を一気に高めたのが横浜高の筒香嘉智だった。プロで成長した2人がどんな名勝負を演じてくれるのか? そんなタイムカプセルの要素が詰まっているのも、オールスターゲームならではの魅力かもしれない。
文=オグマナオト