今シーズン、巧みなリードとキャッチングで投手陣を引っ張り、優勝へ導いた石原。リード面での評価が高かった今シーズンだが、石原の真骨頂はキャッチングにある。
12球団一と称されるキャッチング技術はもはや芸術の領域。捕球時にミットがブレず、審判から見やすい捕球することで、際どいコースをことごとくストライクにしてきた。
アメリカ時代、四球の多かったジョンソンが広島で大活躍を見せた背景には、石原の捕球技術が大きく影響している。
ジョンソン自身も以下のようにコメント。
「石原をアメリカに連れて帰りたい」
石原に絶対的な信頼を寄せている何よりの証拠だ。
また、投手によって構える位置を大胆に変えたり、投手の持ち球を効果的に引き出し、打者の裏をかく配球はチーム内外から高い評価を受けている。まさしく、経験に裏打ちされたベテランの妙技だ。
石原が先発出場した時の戦績は83試合で44勝19敗。先発投手の防御率は2.65と好成績を引き出している。これは50試合以上出場した捕手の中でダントツの成績。数字上でもリードの確かさが証明された形だ。
リーグ25年ぶりの優勝に扇の要として大きく貢献した石原も、かつてはファンの罵声を浴び続けた過去がある。
ここ数年で広島ファンになった方は想像もつかないかもしれないが、若手時代はリードを酷評されることが多かったのだ。
「単調というかワンパターン」。「苦しくなったらアウトコースに構えようとする」「攻めのリードというより逃げのリード」……。
そんな厳しい批判が相次いだ。
正捕手に座りながら負けが込んでいくなか、戦犯的な扱いも受けた。加えて、左手有鈎骨骨折から打撃成績が急降下したこともあった。打撃不振が批判に拍車をかけ、球場で罵声を浴びることがさらに増えた。
しかし、石原は批判を受けながらも、めげることなく経験を積み、技術を磨き、今日に至っている。2年目には8個のパスボールを記録するなど、最初から今のような守備力はなかった。
だがこれも、ナックルボーラーのフェルナンデスや、驚異的な変化球を投げる永川勝浩といった投手の球に食らいついていったからこその代物。努力で掴んだ技術といえるだろう。
石原の魅力の一つに、予想を超えた意外性がある。その最たるものに、2009年から2014年の間に6年間連続で放ったサヨナラ打がある。これは日本記録だ。
サヨナラの場面でなぜか打席が多く回ってくること。そのチャンスをものにできること。さらには、その決め方もクリーンヒットだけでなく、デッドボールだったり、イレギュラーバウンドだったりと、石原にはどことなくラッキーなインチキくさいソレが多い。
そのためファンからは、石原の起こす意外性は「インチキなのでは?」と、冗談めかした疑惑の目を向けられているほどだ。石原が意外性あるプレーを見せたときは、こぞってファンはこう騒ぐ。
「今のは“インチキ”だ!」
それが、今やファンの楽しみの一つとなっているのである。
しかし今回の受賞は正真正銘、守備力を認められてのゴールデン・グラブ賞だ。低迷期から長らく広島のホームベースを守り続け、批判や罵声に耐えてきたベテランが初めて獲得したタイトルに、心から賞賛を送りたい。
文=井上智博(いのうえ・ともひろ)