【あらすじ】
野球名門校DL学園野球部1年の狩野笑太郎らは一つ屋根の下、寝食をともにする合宿生活。パイセンの命令は天の声。逆らうヤツはあの世行き。されど楽しい野球漬け。元PL学園球児が描く超リアル高校野球の世界。
【選定理由】
ツクイ:2位(8pt)/オグマ:2位(8pt)/計16pt
ツクイ:去年1年で評価がさらに高まった作品だと思います。まずは、なきぼくろ先生の野球リテラシーの高さ。それに加えて、マンガとしての表現力も増してきた印象です。
オグマ:従来の野球マンガにはないアングルが多くて、毎週のその新しい視点を探す楽しさがあります。特に走塁シーンが見物。走塁がカッコいい野球マンガなんて、ほかに記憶にありません。
ツクイ:ベタを多用した「黒い野球描写」も、完全に確立しましたよね。
オグマ:なきぼくろ先生曰く、過去の野球マンガをほとんど読んでいないそうです。せいぜい『ドカベン』くらい。本当に野球漬けで、高校に入ってからはPLの寮生活でマンガのある世界にいなかった。だから、「野球マンガっぽくないですね」といわれることに対しては、「へー、そんなんだ」という感想しか抱けない、と。つまり、狙って新しいアングルを探しているんじゃなくて、自分が純粋にカッコイイと思えるものを描いている。
ツクイ:そもそもユニフォームの着こなしや、立ち姿だけでもうすでにカッコイイですからね。難点を挙げるなら、似たような顔の部員が多いところかな。でも最近は、主人公・狩野笑太郎がいなくてもストーリーが回っていくほど、各キャラクターが立ってきましたからね。すごいと思いますよ。
オグマ:ここのところずっと上級生の試合ですからね。それだけ、キャラクター個々の造詣がなきぼくろ先生のなかではできている、と。
ツクイ:あとはやっぱり、リアリティーの濃度がワンランク違う。練習で喉がカラカラに渇いたとき、地面にツバを吐いたら泡の状態になる。それがサラサラなのは、裏で隠れて水を飲んだからだと先輩に喝破される……とか、実体験をくぐり抜けてきた人じゃないと絶対に描けない(笑)!
オグマ:PL野球部が休部になった今、「PLの遺伝子」はここで受け継がれている、というね。
ツクイ:その通り! 一方で、PL野球部というブランドに向けられていた、ある種の色眼鏡みたいなものはもう気にしなくていいわけだから、今後はもっともっと自由に描いていって欲しいですよね。結果として『バトルスタディーズ』が残ることで、PL野球部が神話になっていくわけですから。これもう、『スター・ウォーズ』ですよ。遠い昔、常識っぱずれのフォースを持つジェダイの部員たちがたくさんいました……っていう。その意味でも、ますます期待したいです。
【あらすじ】
元メジャーリーガー茂野吾郎の息子・大吾は、才能のなさと二世の重圧から野球をやめていた。そんな大吾の元へ、一人の転校生が現れる。吾郎の盟友にしてライバル、佐藤寿也の息子、光だ。佐藤親子との出会いによって、大吾の野球人生が大きく変わり始めていく。
【選定理由】
ツクイ 3位(5pt)/オグマ 1位(10pt)/計15pt
オグマ:こういうランキングもので、こんなに有名な作品を出すのはいかがなものかと思うんですけども、本当に毎週、ちゃんと試合が面白い。
ツクイ:前作の『MAJOR』も最近あらためて読み返してるんですけど、満田先生は本当に子どもたちの世界を描くのが巧いですよね。まあ、『2nd』はちょっと、女児へのサービスシーンが多すぎる気もしますけど(笑)。
オグマ:こういうセカンドジェネレーションものって、前作のトレースが多くなりがちですけど、この作品ではあまりそういうシーンを見かけませんよね。あってもそれを感じさせない、新しい作品になっている。みんながちゃんと新しい悩みを抱えていて、新しい野球の面白さも描かれていて。主人公が投手から捕手へスライドした影響も大きいと思いますが。
ツクイ:よくわかります。各キャラクターたちが、それぞれ現代に生きる子どもらしい感性を持っているんですよね。少年野球の描き方も、じつに今どきらしい形になっていますし。『MAJOR』という作品のカタルシスはしっかりと残しつつ、きちんと現在進行形の野球マンガになっている。これって簡単なことじゃないですよ。
オグマ:眉村の子どもたちをさらりと出してきたり、旧作ファンの喜ぶツボも押さえていますからね。『MAJOR』世代が読んでも面白いし、この『2nd』から入った読者でも楽しめる作品だと思います。
【あらすじ】
小柄な体格ながら抜群の野球センスを持つ中3球児・白戸大輔のもとに現れたおっさんは自称“野球の神様”。 おっさん(神様)は告げる、「お前は将来メジャーリーガーになる男だ」と。野球を続けるため、小さなスラッガーとおっさんの挑戦が始まる。
【選定理由】
ツクイ1位(10pt)/オグマ 圏外(0pt)/計10pt
ツクイ:『ヤキュガミ』のよさは大きく2つあって、1つは“野球の神様”が人間として登場する、という仕掛け。“野球の神様”ってフレーズは、野球好きなら誰でも耳慣れているわけですよ。グラウンドへ入るときに帽子を取るのも、ダイヤモンドのなかでツバを吐かないようにするのも、何となくそこに神様っぽいものがいるんじゃないかとみんなが思っているからで、そういう意味では全員が「野球教」の信者なわけです。その「野球教」の神様がおっさんの姿で現れるという、取っ掛かりのよさ。
オグマ:僕は、野球の神様はたくさんいる、という部分も面白いと思いました。『デスノート』の死神方式というか、結果を残す選手の後ろにはそれぞれ神様がいて……というのは今後さらに広がりを見せていきそう。
ツクイ:もうひとつのよさは、都立校のスポーツ推薦枠を引っかけてくるリアリティー。ワンアイデアだけで押しきらない、バランスの妙というか。原作者であるクロマツ先生の野球に対する知識と愛が、よく噛み合った作品だと思います。
オグマ:野球の神様というのは、2016年のキーワードのひとつだったかも。『バトルスタディーズ』でも、正岡子規を野球の神様のように描いて、抜群に面白かったです。
ツクイ:『ヤキュガミ』に登場する神様の魅力は、とても人間くさいところ。個人的に「やられた!」と思ったのが、この神様はとにかくエコ贔屓するんですよ。「野球の神様に愛される」という慣用句がありますけど、この神様は神様のくせに平等でも博愛でもない。むしろ、悲しいぐらい理不尽なわけです。そうだよな、つまりこういうことだよな、と。神様をワガママな性格にするというのは、シンプルだけど素晴らしいアイデアだと思いました。あとはここに野球シーンの描写力がついてくれば……。その期待値も込めて、今回のイチ押しにしました。
(次回「4位、5位、次点編」に続く)
文=オグマナオト