熱戦が繰り広げられた100回目の夏の甲子園。今大会でも未来のスター候補が躍動した。開催前から注目されていた根尾昂、藤原恭大(ともに大阪桐蔭)や小園海斗(報徳学園)だけでなく、今大会で名前を全国に知らしめ、一躍ドラフト戦線に躍り出た選手もいる。前編となる今回は1回戦での働きぶりから“キラ星”を紹介したい。
(※執筆は1回戦終了時点)
落合博満(元ロッテほか)や山田久志(元阪急)ら名選手を輩出している秋田から、スター候補が誕生した。金足農の吉田輝星である。専門筋には好投手として知られていたが、全国の舞台は未経験。一般的な知名度はさほど大きくなかった。その吉田が初戦の鹿児島実戦で圧巻の投球を見せた。
初回、先頭に四球を与える立ち上がりだったが、その後を抑え無失点で切り抜けると、7回までスコアボードに「0」を刻んでいく。8回に1点を失ったものの、終わってみれば、9回1失点14奪三振の好投。金足農の23年ぶりの初戦突破に大きく貢献し、この快投で一気にドラフト戦線に躍り出た。
この日の最速は148キロ。176センチ81キロと野球選手にしては大柄ではないが、実力は証明した。プロ志望届を出せば上位指名は確実だ。金足農は先輩の石山泰稚がヤクルトの守護神として活躍している。吉田もプロのステージで先輩に続く活躍を見せたい。
(※編集部注 金足農は秋田勢103年ぶりの決勝進出の末に準優勝。強豪を相手に4試合連続2ケタ奪三振、最速150キロなど、快投を続けた吉田は今大会ナンバーワン右腕として評価された)
田中健二朗(DeNA)を擁してセンバツを制した実績を持つ常葉大菊川にニュースターが誕生した。「1番・遊撃手・主将」を務める奈良間大己だ。接戦となった初戦の益田東(島根)戦では、バックスクリーンへ飛び込む本塁打を含む2安打を放ち、チームの勝利に貢献。打率.818(22打数18安打)という静岡大会で記録した脅威的な打棒を、甲子園の舞台でもいかんなく発揮してみせた。
ヤンキースを彷彿とさせる常葉大菊川のピンストライプのユニフォームに身を包んでの「1番・遊撃・主将」は、まさに「ニューヨークの貴公子」と呼ばれたレジェンド、デレク・ジーターのよう。172センチ66キロと小柄ながら躍動感溢れるプレーで、一躍の大会再注目の選手の1人となった。
現時点ではプロ志望を表明していないが、その進路に注目が集まる。
プロ野球と違い、高校野球では特に珍しくない二刀流。今大会では根尾を始め、大谷拓海(中央学院)、野村佑希(花咲徳栄)の投打に注目が集まった。一方、3季連続出場ながら未勝利の新興勢力から、“エースで4番”のドラフト候補になりそうな選手が現れた。下関国際の鶴田克樹だ。
昨夏は「4番・一塁」としてプレーしたが、今年は「4番・投手」として聖地に戻ってきた。初戦の花巻東戦に先発した鶴田は、延長10回を1人で投げ抜き、2失点(自責1)、9奪三振、与四球1の好投。打撃面では快音は響かなかったものの、投手としては十分な働きを見せた。
この試合では終始140キロ台のストレートを投じ、疲れが溜まった10回でも144キロをマーク。スタミナがあるところも見せた。また与四球1は10回に記録したもので、9回までは1つも四球を与えていない。この制球力もスカウトへのウリになる。
現状では、高校生投手に多いストレートとスライダーのコンビネーションで打ち取っていくスタイルではあるが、180センチ93キロと体格もよく、伸びしろは感じる。また、山口大会では打率.524(21打数11安打)、2本塁打を記録しており、野手としての魅力も秘めている。
上位指名は難しそうだが、下位指名なら…十分にドラフト候補に入ってくる。
(※編集部注 鶴田は球威のあるストレートと、粘り強い制球力で力投を続け、ベスト8進出の原動力に。惜敗した準々決勝では強打の日大三打線を8回2死までノーヒットに抑え込んだ)
このように1回戦を終えただけでも、これだけのキラ星が誕生した。大会を通じての“キラ星”の続報は後編でお届けしたい。
文=勝田聡(かつた・さとし)