岩本は、2008年のドラフト1位で広島に入団。182センチ96キロの恵まれた体から放たれる長打力が武器の大型野手だ。
当時、2009年から新球場・マツダスタジアムに本拠を移し、新時代を迎えようとしていた広島にとって「新時代・最初のドラ1」となった岩本は、次世代のスラッガーとしての期待を一身に受けて入団した。
しかし、その期待に応えているとは言い難い。今シーズンで8年目を迎えるが、これまで年間を通して1軍出場したシーズンはなく、ここ2年間の出場数はわずか34試合(2015年は7試合、昨年は27試合)。本塁打もゼロという状況だ。
昨年、悲願の優勝を遂げたチームのなかでも存在感を発揮できず、優勝を引き寄せる数々のアーチは、後輩選手たちから放たれた。いよいよ崖っぷちに追い込まれた岩本だが、それでも表舞台に現れると依然、大きな歓声が起こる。
その人気の理由は、岩本の出身地と広島入団までに歩んできた野球人生にあると筆者は考える。
広島は郷土愛が非常に強い土地柄だ。それ故に、広島ファンの間では、地元・広島出身選手の人気が高い。
岩本は広島生まれの広島育ち。幼少期から広島ファンとして育った生粋の広島っ子だ。そんな広島愛のDNAを継ぐドラ1選手が、「地元出身の和製大砲」というロマンを引っさげて入団したのだから、広島ファンの寵愛を受けるのは必然だった。
さらに岩本は古豪・広島商の出身。それもまたファン心理をくすぐる理由となっている。
広島商は歴代2位の甲子園優勝回数7回(春1回、夏6回)を数える名門中の名門。高校野球界で一時代を築いた広島商は、広島野球界の誇りだ。
最近は甲子園から遠ざかっているが、その名門校で1年時からエースで4番を担ったのが、ほかならぬ岩本だった。そして、岩本が3年の夏の甲子園以来、広島商は甲子園の土を踏んでいない。岩本に特別な思い入れを持つファンが多いのもうなずける。
生まれ持った広島愛のDNAでファンの心をつかむ岩本は、巨体には似つかわしくない、少年のような風貌の持ち主でもある。そのルックスもファンに愛されるもう1つの理由だ。
岩本は、広島商、亜細亜大という日本屈指の厳しい練習で名を轟かせる野球部で鍛え抜かれてきた。しかし「修羅場」を潜り抜けてきたとは思えないほど朴訥な顔つきをしているのだ。
亜細亜大出身の同僚、永川勝浩、九里亜蓮、薮田和樹らは「修羅場」を耐え抜いた者ならではの鋭い目つきをしているが、岩本の表情はその対極にあるように見える。
その朴訥さとギャップが魅力となり、岩本は「ガンちゃん」との愛称で親しまれている。
岩本がファンから愛される3つ目にして最大の理由は、やはりロマン溢れるパワーに尽きる。
その長打力はすでに実証済みだ。プロ2年目の2010年7月4日に初本塁打を放つと、そこから2カ月で14本の本塁打を量産。あの衝撃を知るファンは、岩本こそ広島の主砲を担う男だと確信していた。
それ以降は、ケガもあり、現在まで寂しい成績のシーズンが続くが、あのときのインパクトはファンの脳裏に鮮明に焼きついている。その印象がすごすぎただけにヤキモキさせられるのだが、それもポテンシャルの高さを知るが故のこと。ファンから向けられる期待と愛の大きさはチーム屈指といえる。
近年はレギュラー候補に名前が挙がらなくなってしまったが、「広島産の和製大砲」というロマンにはファンの夢がつまっている。
今キャンプで放った一発をきっかけに奮起することを大いに期待したい。今年こそロマンに終わらぬよう潜在能力を開花させ、ファンからの愛に「結果」という形で応えてほしい。
文=井上智博(いのうえ・ともひろ)