第9回■「弱くても勝てます」開成高校野球部のセオリー(著者 高橋秀実)
今週はあの
菊地選手をもうならせた
『弱くても勝てます 開成高校野球部のセオリー』(新潮社)をご紹介。野球界隈の路地裏をコソコソと歩く自分にまでも届いた、「この本、面白いですよ」という評判は間違っていませんでした。動画のなかで話していた小野店長のご子息の話ではありませんが、野球部ならずとも部活動に励んでいるお子様を持つ読者の皆様には、是非とも手に取って読んでいただきたい一冊といえるでしょう。
まずは読者の皆さん、
開成高校をご存じですか? 野球のコンテンツだからといって、間違っても島根県にある
開星高校ではありません。毎年のように、あの東京大学へ多数の合格者を送り出す高校として有名で、Googleで「開成高校」と検索すると続く検索候補に「偏差値」と表示されるほど、ズバ抜けて
偏差値に注目が集まる、いわゆる「超進学校」であります。
勉強の世界でいうと全国屈指の強豪校(という表現が正しいのか微妙ですが)といえる開成高校。この「超進学校」にはグラウンドがひとつしかありません。さらには他の部活との兼ね合いもあり、野球部が練習できるのは週一回で、その練習時間はなんと3時間ほど。
うーむ、遡ること約20年前、元・高校球児の私は雨の日も風の日も雪の日も練習を行っておりました。思い出すのは修学旅行での一コマ。なぜか京都のお寺の前で皆で並んで素振りをさせられたのは、今考えるとなんだかよくわからない、ある意味、貴重な経験をしたものです。そんな練習漬けが当たり前の高校野球部とは一線を引く、少ない練習時間だからこその「集中力」を活かした練習方法こそが、開成高校野球部の特徴なのです。
さらに読み進めていくと、開成高校野球部は個性的で魅力的なメンバーが勢揃い。流石というべきか「幼い頃から勉強はしなくても出来た」といった選手も多く、将来の夢は「外科医か内科医で迷っています」だったり「お金と自由があれば動物学者」など、普通の高校生とは思考レベルが異なる秀才・天才揃い。部員たちが語る野球に対する想いや、技術的なことや精神論はまさに禅問答のような、不思議な野球の世界に引きずり込まれます。いや〜、ハナを垂らして何も考えずにボールを追っかけていた自分とは大違い。まあ、漫画に出てくるようなアホ学校出身の自分と比べることすら恥ずかしいですが…。
一番興味深かったのは、開成高校の野球は
「ドサクサに紛れて勝つ」「ハイリスク・ハイリターンのギャンブル」といった、進学校には相応しくない野球を目指しているといったところ。試合中にエラーするのが当たり前の野球レベルを素直に受け入れて、僅差で勝つことよりも、野球の「流れ」を利用して一気に大量点を狙い、相手の戦意喪失を誘発して勝つ…とまあ、この本では開成高校野球部独自の野球理論が展開されています。「勉強が出来る=真面目」といった、自分のなかの勝手な妄想を気持ちよくブチ壊してくれた開成高校野球部の必勝法。詳細はネタバレになりますので控えますが「目からウロコ」の野球理論が他にもたくさん載っていますよ。
ちなみに皆さんもご存じの
正岡子規。そうです、野球をこよなく愛した彼は旧制愛媛一中に入学後、明治16年には同校を中退して上京し、受験勉強のために共立学校に入学したそうで、それが今の開成高校なのです。どうやら開成高校は野球は切っても切れない縁があるようですね。
■プロフィール
小野祥之(おの・よしゆき)/プロ・アマ問わず野球界にて知る人ぞ知る、野球本の品揃え日本一の古本屋「ビブリオ」の店主。東京・神保町でお店を切り盛りしつつ、仕事で日本各地を飛び回る傍ら、趣味はボーリング。と、まだまだ謎は多い。
文=鈴木雷人(すずき・らいと)/会社勤めの傍ら、大好きな野球を中心とした雑食系物書きとして活動中。自他共に認める「太鼓持ちライター」であり、千葉ロッテファンでもある。
■お店紹介
『BIBLIO』(ビブリオ)
〒101-0051 東京都千代田区神田神保町1丁目25
03-3295-6088
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