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小野泰己こそ藤川球児の「火の玉ストレート」を継ぐ男。将来、小野が「大エース」と呼ばれるために


 ピンチを迎えても周りに流されることなく、マウンドでは淡々とポーカーフェイスで投げる。それは投手として生きるための武器でもある。阪神のルーキー・小野泰己もポーカーフェイスだ。

 金本知憲監督に「将来の大エース!」と称された小野は、これまでの野球人生同様、派手に騒がれることはなく充実のキャンプを終えた。

 ただ、スポーツ紙の1面を飾る日もあり、ここにきて小野の評価はうなぎのぼり。開幕ローテーション入りを予想する声も挙がっている。

 細身の体でオーバースローから投げ込むスタイルは、岸孝之(楽天)に近いタイプといわれ、金本監督は伊藤智仁(元ヤクルト)を重ね合わせて称賛する。

 小野が得意とする球種は平均140キロ後半、最速153キロのストレート。しっかり指にかかった球は縦回転し、球質は抜群。初速から終速まで速度が落ちない、俗にいう「糸を引く」ようなボールを投げ込む。

 この小野が目指す投手は、同じ球質のボールを投げ、「火の球ストレート」で一世を風靡した藤川球児にほかならない。

藤川球児と同じ球質のボールを投げる小野泰己


 小野は折尾愛真から富士大へ進み、昨年、阪神からドラフト2位で指名された。高校時代は甲子園の経験はないが、ソフトバンクや巨人のスカウトから注目されていたこともあり、プロ志望届を提出。しかし、ドラフト指名されることはなく、富士大に進学した。

 富士大でストレートに磨きをかけた小野は、再びスカウトの目にとまる。「投手豊作年」のドラフトにあって、大谷翔平(日本ハム)、藤浪晋太郎(阪神)らの世代としては一足遅れて注目されることとなったのだ。

 思い返してみると、小野が目標とする藤川は1998年のドラ1投手。高知商時代には甲子園に出場し、将来のエースとして大きな期待を寄せられるなか、阪神に入団。しかし、度重なる故障に悩まされ、潜在能力を発揮できぬままファーム暮らしが続いた。

 転機が訪れたのは2004年のこと。当時の2軍投手コーチ・山口高志氏のアドバイスでフォームを改造。「火の球ストレート」を手に入れたことで、藤川の野球人生は激変した。

 小野は、藤川と同じ球質のボールを投げると先述した。しかし、それはストレートに限った話だ。そして、まだ「火の玉ストレート」には至っていない。

「火の球ストレート」を手に入れるために


 では、当時の藤川にあって小野にはないものは何か?

 球質は同じだとしても、藤川には打者が「ストレート待ち」でもバットに当てることができない、浮き上がるような球のキレがあった。

 現在の小野のストレートには、ファウルを打たせることはできても、空振りを奪うまでの威力はまだない。

 ただ、藤川が「火の球ストレート」を手に入れるまでに、高卒プロ入りで6年の歳月を要していることを考えれば、大卒とはいえ小野にも若干の猶予は残されている。

 入団時、もやしっ子のような細身で変化球を多投していた藤川が6年後にはバットにかすらせもしないストレートで打者を翻弄したことを考えれば、線が細い小野も将来、藤川を彷彿させる「火の球ストレート」を投げる可能性は、十分にありえる。


魂を込めた投球


 冒頭にも述べたとおり、小野はポーカーフェイスで物事に動じないタイプの投手だ。藤浪晋太郎がよく言う、脱力投法でリラックスしてキレのある球を投げ込むことにも長けている。

 反対に、藤川はどちらかというと喜怒哀楽を表に出すタイプだ。

 とはいえ、タイプはどちらであってもいい。打者を抑えればいい話しだ。

 ただ、藤川にあって、小野にはまだないものがもう1つある。それは、藤川の投じるボールには魂がこもっているということ。まさに「火の球」、いわゆる気持ちの部分だ。

 バットにかするか、かすらないかは、球のキレだけの話ではない。魂がこもってこそなのだ。

 小野が藤川のようにボールに魂をこめることができれば、金本監督のいう、「大エース」への道は確かなものとなるに違いない。


文=まろ麻呂
企業コンサルタントに携わった経験を活かし、子供のころから愛してやまない野球を、鋭い視点と深い洞察力で見つめる。「野球をよりわかりやすく、より面白く観るには!」をモットーに、日々書き綴っている。

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