第四回:変化球のおさらい(2)
球種の特徴と使い方 (2)
○落ちる系
キビタ:前回から引き続いての、変化球のおさらいです。
久保:真っすぐ系、曲がる系ときて、今度は落ちる系のボールを紹介していきます。
・フォーク、スプリット
キビタ:フォークボールははさんで投げる球です。大魔神・佐々木主浩投手(元横浜他)、村田兆治投手(元ロッテ)、野茂英雄投手(元近鉄他)が投げていましたね。
久保:指の間ではさんで抜くので、回転があまりありません。だから真っすぐと同じ軌道できて、ベースのあたりでストンと落ちます。
キビタ:スプリットフィンガードファーストボール(略してスプリット)は少し浅い握りのフォークボール。真っすぐとあまり変わらない速さできて、フォークよりも少し小さく落ちます。
久保:かつての伊良部秀輝投手(元ロッテ他)のように、指があまり開かない人が投げる球種です。
キビタ:フォークもスプリットも、ホームベース上に投げて、打者に振らせる球です。
昔懐かしい野球盤の「消える魔球」みたいなものです。ただし落ちなかったら、長打にされる危険性があります。
久保:あまりコースを狙わない球ですが、ごくまれにフォークボールを内外にコントロールできる投手もいます。そういう人はスペシャルな存在と言えます。
キビタ:上原浩治投手(レッドソックス)はフォークをコーナーに投げ分けることができるので有名です。
久保:ベース上で振らせる球ですから、キャッチャーの捕り方も違ってきますよね。
キビタ:以前にも説明しましたが、フォークボールのときは、キャッチャーがまず真ん中周辺に構えます。そして捕り方も、体の中心で止めようという感じになります。縦スラだったら、もう少し外に寄って構えて、ミットも外に動きます。
久保:打者の反応はどうでしょう?
キビタ:プロのレベルでも、前につんのめって、バットを投げ出すような空振りになってしまいます。真っすぐよりも球速が遅くなるので、途中で「フォークだ」とわかっても待ちきれない。いろんな人から話を聞くんですけど、こればかりはわかっていてもダメみたいですね。
・チェンジアップ
キビタ:チェンジアップは定義が難しいんですけど、真っすぐと同じ腕の振りで、でもボールは真っすぐよりも遅い球。打者のタイミングを外すのが目的です。
久保:人によっては若干シュート回転で逃げていったり、落差があったりします。
キビタ:昔は真っすぐを深く握ったりしていましたけど、西口文也投手(西武)や松坂大輔投手(レッドソックス)あたりから親指と人差し指で輪をつくる
サークルチェンジが日本でも主流になってきました。
久保:他に変わった投げ方をする人もいますか。
キビタ:
バルカンチェンジという球種もあって、これは大隣憲司投手(ソフトバンク)が投げています。「スタートレック」という映画に出てくるバルカン星人が人差し指と中指、薬指と小指をそれぞれくっつけて挨拶することから名づけられたらしいです。どこまで本当なのか定かではないのですが…。
久保:中指と薬指の間をあけた握り方になりますね。
キビタ:中指と薬指の間から抜いて投げるんです。その他、井川慶投手(オリックス)のように、わしづかみに近い投げ方もあります。
久保:いずれにしても全力で投げているように見えないと意味のない球種です。
・パームボール
キビタ:パーム(=手のひら)で握るボールです。フォークとチェンジアップの中間のような球種です。親指と小指でボールを支えて、真ん中の指を立てて投げるのが一般的です。
久保:なかなか見る機会は多くありませんが、帆足和幸投手(ソフトバンク)が投げています。
キビタ:ただ、帆足投手の場合は若干スライダー回転がかかっているらしいです。落ちてはいますけど、右打者の外から中に入ってくる軌道だと言われています。正統派のパームボールだったら
渡辺亮投手(阪神)ですかね。
久保:この写真はJX-ENEOSの大城基志投手です。手のひらでボールを握って、明らかにパームボールの握りです。でも本人に聞いたら「いや、これは遅いチェンジアップです」と言うんです。後になって「確かにパームボールに近いですね」と言ってはいたんですが。球種は本人が言ったことが絶対ですから、こちらがどんなに推測しても、本人と食い違うことは往々にしてあります。
・ナックルボール
キビタ:無回転で不規則な変化をするボールです。握り方はナックルボールスタジアムのロゴを参考にしてください。
久保:ボールを爪で弾いて、ほとんど回転をかけない球です。
キビタ:
理化学研究所の姫野龍太郎先生によると、リリースからホームベースまでで1回転するかしないかというボールだそうです。
久保:真っすぐだと多ければ40回転ぐらいですから、この差は大きいですね。
キビタ:ほとんど回転しないから、変化は不規則になります。行く先は神のみぞ知るボールです。日本人でナックルボーラーと言えば吉田えり投手(兵庫ブルーサンダー)ですかね。彼女は日本人では稀なナックルボーラーです。
○特殊球
・ナックルカーブ
キビタ:その他の珍しい球種では、昔
マイク・ムシーナ投手(元ヤンキース他)が投げていたナックルカーブ。ナックルの握りで回転をかけて変化させます。軌道は縦のカーブに近いですかね。
久保:日本人では加藤大輔投手(楽天)が神奈川大時代から投げていました。
・無回転フォーク?
キビタ:2012年のシーズン途中から話題になっていたのが、中日の岩田慎司投手が投げていた
このボールです。
久保:握りはフォークですけど、落ちながら右打者の外に流れています。
キビタ:キャッチャーの谷繁元信選手も捕れません。この他にも岩田投手が投げて、谷繁選手が捕れない場面が何度かありました。おそらくフォークのサインなのに、横に動いてしまうから、キャッチャーが対応しきれないのだと思います。キャッチャーは体の中心部で落ちる球を止めようと準備しているのに、横にも逃げていくから、ある種のサイン違いみたいになったのだと予測できます。
久保:これで変化球の解説は以上です。推測がいつも正しいとは限りませんが、球種を推測する習慣があれば、試合にも入っていきやすくなるでしょう。次回は、公開講座のなかで充分に説明しきれなかった、ストレートの見方についてです。
■プロフィール
キビタキビオ/野球のプレーをストップウオッチで測る記事を野球雑誌にて連載をしつつ編集担当としても活躍。2012年4月からはフリーランスに。現在は『野球太郎』を軸足に活躍中。
久保弘毅(くぼ・ひろき)/テレビ神奈川アナウンサーとして、神奈川県内の野球を取材、中継していた。現在は野球やハンドボールを中心にライターとして活躍。
ブログ「手の球日記」
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