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俺はあいつを知ってるぜ!〜近本光司(阪神)〜骨と書いてコツ。打・投・走、知性で光った大阪ガス時代

文=久保弘毅

俺はあいつを知ってるぜ!〜近本光司(阪神)〜骨と書いてコツ。打・投・走・知性で光った大阪ガス時代
 週刊野球太郎の不定期人気企画『俺はあいつを知ってるぜ!』。ドラフト情報に強い本誌『野球太郎』らしく、今をときめくプロ野球選手のアマチュア時代を当時の取材・見立てを元に、その凄みを再検証。今回は社会人野球を追い続ける本誌ライター・久保弘毅が阪神のリードオフマンを務めるルーキー・近本光司に迫る。

見るたびに好印象


 近本光司を初めて見たのは2年前のスポニチ大会。大阪ガスの1番・右翼で出場していた小柄な左の外野手が、やけに輝いて見えた。まず投げるフォームがいい。キャッチボールからきれいに左腕を振って、全身を上手に使えている。1球たりともおろそかにせず、キャッチボールの距離が離れても100%に近い確率で、相手の胸にピタリと投げる。指先感覚の優れた左投手のようなキャッチボールに目を奪われた。

 地肩の強さよりもスローイングでの身のこなしに見とれて、翌年の本誌『野球太郎 No.026プロ野球選手名鑑+ドラフト候補選手名鑑2018』では、スローイングを(5段階評価の)4にしてしまった。当時の近本は、関西学院大時代に肩、ヒジを痛めた影響で、スローイングにあまり自信がなかったという。「そういう評価をする人もいるんだな」と思っていたと、本人から後日聞かされた。回復途上の左肩は、社会人でも強い部類ではなかったかもしれない。

 「投手出身ですけど、コントロールはよくないから、丁寧に投げています」とも言っていた。とはいえ、動きひとつ取っても「モノが違う!」と思わせるだけの何かが近本にはあった。大阪ガスの試合を見るのが、がぜん楽しくなった。

 その後も見るたびに、近本はいい動きを見せてくれた。三菱重工神戸・高砂に補強された社会人1年目の都市対抗では、内寄りの甘い球をクルッと回って痛烈なピッチャー返しにして、塁に出ればすかさず盗塁。シングルヒットで一塁から三塁を陥れるなど、その速さは際立っていた。塁上から消えるようにスタートを切って、すぐにトップスピードに乗る。スライディングで減速しない。その時のスコアブックには「めちゃくちゃ速い!」と記した。稚拙なメモで申し訳ないが、並の選手の「速い」とは違うことを記しておきたかった。

 翌年の京都大会で見ても、やっぱりいい。5番・右翼で打って走って、格の違いを見せつけた。打席では一本足でピタリと待てる。余裕で二盗を決めてしまう。積極的に打ちにいきながら四球を選ぶこともできる。なんでドラフト候補に近本の名前が出てこないのか、不思議なくらいだった。

速いのに、そそっかしくない


 小柄な左の外野手は、社会人に山ほどいる。プロのニーズもあまりない。そもそも抜きん出た力を持った外野手なら、高校、大学の時点でプロにいっている。大島洋平(中日)のような成功例はあるにはある。だが中日も「二匹目の大島」を狙って、失敗を繰り返している。「数打ちゃ当たる」にしても、プロで大成する確率が非常に低いカテゴリーだ。

 しかし近本には、そんな先入観を覆してくれそうなワクワク感があった。社会人の左の好打者にありがちな「野球上手」な雰囲気ではなく、もっと根源的な速さと強さがあった。それでいて、ただの脚力自慢で下位指名されてきた過去の選手とは異なる、勘のよさも感じられた。速い選手特有のそそっかしさがなく、静と動のメリハリが効いている。

 御存じのとおり、社会人2年目の都市対抗で近本はブレイクした。ゲッツーにならない脚力を生かして、どんどん打って出塁し、次の塁を陥れる。高く弾んだ内野安打もあれば、逆方向への柵越えもあり。得意な内寄りの球がほとんどこなくて「調子はよくない」と言いながらも、打率は5割を越して橋戸賞(MVP)を受賞した。ドラフト好きの野球ファンの間でも、近本の名前を知らない人はいないくらいに有名になった。

 圧倒的な結果を残しただけでなく、インタビューの受け答えにも知性と凄みが感じられた。都市対抗での囲み取材では「骨と書いてコツと読むんで」と、サラッと言ってのけている。単なるスピード自慢のアスリートには言えないセリフ。「体の機能で動く」本質を理解している。その後のロングインタビューでも、近本は体の使い方をわかりやすく伝えてくれた。

 大阪ガスの橋口博一監督は「近本は小難しいことを言うかも知れませんけど、聞いてやってください」と笑っていたが、ここまで体の構造を明快に説明できるアマチュアの選手は、おそらくいないだろう。感覚だけに頼ることなく、それでいて言葉に振り回されることもない。一流のトレーナーの解説を聞いているような心地よさがあった。近本の話に何度もうなずきながら「この選手は絶対プロでモノになる」と確信した次第である。

 唯一の心配は、ケガが多かったこと。小さな体からは想像もつかないくらいの出力があるので、ケガと隣り合わせのプレースタイルとも言える。アマチュア時代にケガをしたことで、自分の体と向き合う時間を作れたのはプラスだったが、今後のケガだけには注意してほしい。

 疲れもあってか、6月に入ってからはやや調子を落としている。しかし賢い近本のこと、目先の結果に一喜一憂することなく、「年間通してプロで戦うためのチャレンジ」をしているのだと考えたい。もう一度体のバランスを整えて、昨夏の都市対抗のような爆発的な活躍を見せてくれるか。大阪ガス同様、阪神もいつの間にか「近本が打つと勝つ」チームになっている。

文=久保弘毅(くぼ・ひろき)

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