“成瀬飛翔”とは要約すると、成瀬善久(ヤクルト)が本塁打を打たれる様を指す。
これは、成瀬の被本塁打率(1試合換算した時に本塁打を何本打たれているかを表した数)、被本塁打数が圧倒的に多く、成瀬が本塁打を打たれた時に、SNSなどを含めたネット上で、誰かが”成瀬飛翔”と書き込んだことに由来する。
プロ野球ファンの間では「成瀬の飛翔はソロならOK」という考えもあるくらいだ。
“成瀬飛翔”というイメージが先行している成瀬。ここは成瀬の名誉のためにも、本当に多くの本塁打を供給しているのか検証してみた。
ここ3年、どれくらいの割合で本塁打、フライ、ゴロを打たれているのか調べた数字がコチラ(記録は4月20日現在)。
<2014年>
投球回数:142.2回
被本塁打:18本
被本塁打率:1.1
フライ割合:52.7%
ゴロ割合:38.4%
<2015年>
投球回数:79.1回
被本塁打:16本
被本塁打率:1.8
フライ割合:49.8%
ゴロ割合:41.8%
<2016年>
投球回数:21回
被本塁打:3本
被本塁打率:1.3
フライ割合:32.3%
ゴロ割合:63.6%
うーむ、やっぱり打たれている……。 イメージ先行ではなく、成瀬は本当に本塁打を打たれていた。
しかし、今季の数字を見てほしい。被本塁打数は相変わらず多く、1試合に1本以上打たれるのはデフォルト。ところが、昨年までは打球の半分近くがフライだったが、今季はゴロの数がフライの倍となっている。成瀬にどんな変化があったのだろうか。
成瀬が変わった点は、ワンシームを習得したことだと推測する。
NPBで騒がれたのはダルビッシュ有(テキサス・レンジャーズ)が2010年頃に投げたときだろうか。縫い目(シーム)の1本に、人差し指と中指をかぶせるようにして投げる球種で、シュート気味に落ちる軌道。球速はツーシームよりも若干遅い。
高速シンカーと表現されることもあるワンシームは、空振りを奪うこともできるし、詰まらせることもできる使い勝手のよい球種だ。
今年は菅野智之(巨人)もワンシームを多投し、素晴らしい投球をみせている。
このワンシームを、今季から成瀬も取り入れた。キャンプ時に山田哲人(ヤクルト)を相手に披露した際には、「斜めにピュッときました。良い球です」と、トリプルスリー達成者をも唸らせた。
オープン戦でも試投し、好感触を持ってシーズンに突入。その結果、ワンシームでゴロを量産することで、前述したゴロ割合の倍増という結果に現れている。さらにフライを打たれる割合が減れば、必然的に“飛翔”する割合も減るはずだ。
モデルチェンジを図った成瀬。開幕4試合までは、ゴロ割合を増やす目論見は成功している。1シーズンを通してどういう推移をたどるのか、ぜひ注目してほしい。
文=勝田 聡(かつた さとし)
松坂世代のひとつ上にあたりサッカーの黄金世代となる1979年生まれ東京育ち。プロ野球、MLB、女子プロ野球、独立リーグと幅広く野球を観戦。様々な野球を年間約50試合現地観戦し写真を撮影する。プロ野球12球団のファンクラブ全てに入会してみたり、発売されている選手名鑑を全て購入してみたりと幅広く活動中。