梨田監督は1953年生まれの63歳。2000から2004年にかけて近鉄、2008年から2011年にかけて日本ハムの監督を務め、2001年と2009年にそれぞれリーグ優勝を果たしている。
つまり、今まで監督として2回中2回、就任2年目にチームをリーグ優勝に導いているのだ。シーズン前の順位予想・戦力分析ではこのジンクスがトピックスとして扱われることが多かったが、母数が少ないため、小ネタの域を出なかった。「2度あることは3度ある」と自信を持って言い切れる人はいなかったはずだ。
ところが今季の楽天はそのジンクスにあやかって常勝ロードに乗った。あらためて過去2回の「2年目の優勝」を検証してみよう。
梨田監督は攻撃型野球が好きだといわれている。事実、楽天監督に就任早々、「走れ走れはいすゞのトラック」とコメントし、機動力封印を宣言した。しかし、梨田監督の考えはアンチ機動力野球ではないだろう。現に日本ハムで優勝した2009年には105盗塁を記録している。
梨田采配において1年目は研究の時期。多くの選手を試し、最適なオーダー、戦い方を見つける年なのだ。
思い返せば、1年目に見えるのは「逆」の采配だ。日本ハムでは前任のヒルマン監督が機動力野球で成功していたため、まずは別の可能性を探り、機動力を一時封印した。楽天では前年に大久保博元監督が「超機動力野球」を打ち出したが今ひとつ効果が現れず。機動力を封印しようとした。
ちなみに近鉄1年目は圧倒的に足りなかった機動力増強を試み、断念している。
合わないと感じたら即座に変える“潔さ”が梨田監督の最大の持ち味だ。前の状況に戻すこともいとわない。今年も目玉であるペゲーロ、ウィーラー、アマダーの2、3、4番の助っ人トリオをゴールデンウイークにあっさり崩した。
確かにアマダーは苦しんでいたが、チームが絶好調の状態で中軸に変化を加えるのは指揮官としては怖いはず。しかし、梨田監督に躊躇はない。解体した試合では左バッターを多く並べた。しかも、ただ解体するのではなくオプションを作り、その後は助っ人トリオが並ぶオーダーと併用する「二軸の一方」となっている。
その二軸のいずれでも変わらないのは2番・ペゲーロ。打線の顔になっており、2番打者最強論が再び注目を集めているが、梨田監督自身は2番最強論の信者ではないだろう。優勝した2001年には水口栄二、2009年には森本稀哲が主に2番打者で起用され、それぞれリーグ最多犠打をマークしている。
標榜するのは「シンプルな野球」。形に執着せず、ベストかつ明確なタスクを選手に与える。その手腕はまさに自在派といえるだろう。
≪後編へ続く≫
文=落合初春(おちあい・もとはる)