5月1日現在、首位争いを繰り広げるヤクルトと、最下位に甘んじる広島。この好対照な2チームの4番事情が実に味わい深い。
片やバレンティンの不在によって4番に抜擢されたヤクルト・雄平。片やグスマン、エルドレッドの不在によって4番の席がまわってきた広島・新井貴浩。この2人の境遇、そして年俸がまさに「ザ・プロ野球」を物語る浮き沈みを見せているのだ。
※以下、文中の金額はすべて推定
2002年のドラフト1巡目指名という高い評価でプロ入りを果たした雄平(※当時の登録名はフルネームで「高井雄平」)。「高校No.1左腕」の呼び声通り、高卒選手ながら1年目に5勝を挙げ、潜在能力の高さを見せたが、その後は制球難に苦しみ、2009年限りで投手の道を断念した。
雄平は、東北高時代、投手時代から打撃の才能は買われていた。何度も、センスある打撃に集中するか、それとも150キロ近くを投げられる左腕の特異性に賭けるか、長い間天秤にかけられていた。それだけに、満を持しての打者転向とも見られたため、早期に1軍で活躍するのでは? と周囲も期待していた。しかし、なかなか結果につながらず、やっと2013年にブレイクの兆しを見せたものの、右膝十字靭帯断裂で離脱という不運も重なった。
野手転向5年目の昨シーズン、141試合に出場して初の規定打席に到達。そればかりか、リーグ6位となる打率.316を記録し、23本塁打、90打点で初のオールスターゲーム出場、ベストナイン選出と大きく飛躍を果たした。今年3月に行われた侍ジャパンの試合では初の日本代表にも選出された。
一方の広島・新井貴浩。そもそも、広島に新井が復帰したこと自体が驚くべき球界のトピックスだ。2007年オフのFA移籍で広島から阪神に移籍して以降、「阪神の右の主砲」として不動の地位を築いてきた。ところが、昨季はほとんどが代打での起用となり、最終的には94試合出場で打率.244、3本塁打、31打点。本塁打はプロ生活16年目にして最低の数字だった。
年俸6000万円の4番と、年俸2000万円の4番
今が上り調子の4番と、選手生活晩年を迎えた4番
首位争いを演じるチームの4番と、最下位チームの4番
この格差こそがプロ野球の縮図であり、醍醐味ではないだろうか。そして、年俸の多寡にかかわらず、結果で全てが判断されるのもまたプロ野球だ。
4月29日終了時点の成績を比較すると、雄平は27試合出場で打率.277、2本塁打、14打点。一方の新井は19試合出場で打率.278、0本塁打、6打点。試合数、打席数の違いはあるが、大きな差は付いていない、と見ることもできる。
だからこそ、ここから2人がどんな成績を残し、4番打者として、チームの順位にどう影響を及ぼすのかは、今季のセ・リーグにおける注目点のひとつだ。
成績も上がり、年俸も上がった雄平。だが、シーズンを通して活躍できたのは昨季だけ。プロは継続して活躍できた者だけが富を掴むことができる世界だ。
そして、今季31歳を迎える雄平にとって、残された時間は短い。わかりやすい表現を使えば、稼ぎ時はまさに今なのだ! これからの5年間でどれだけの数字を残すかで雄平の生涯賃金は大きく変わってくる。その焦りが「エンジン」となって更なる発奮材料になるのか、プレッシャーという「ブレーキ」になるのか。一流選手になれるかどうかの瀬戸際であり、真価が問われていると言っても過言ではない。
新井にとっては、代打としてしか評価しなかった阪神を見返すシーズンであり、かつて「裏切り者」呼ばわりした広島ファンの信頼を取り戻すシーズンでもある。同じ「出戻り組」であるはずの黒田博樹は三顧の礼で迎えられたが、新井復帰に対しては拒絶反応を示すファンも少なからずいた。シーズン前の評価や期待は驚くほど低かった。
だからこそ、新井は見返さなければならない。7000万円よりも2000万円の年俸でやりがいを求めた新井なら、それができるはずなのだ。かつて本塁打王と打点王を獲得し、WBCも五輪にも出場した経験値は、他の誰のものでもない、新井貴浩にしかない財産だ。その経験値を生かし、チームの順位を浮上させることができれば、失った1億円以上の年俸もすぐに取り戻せるのがプロのルールだ。
振り返れば、1998年ドラフト時の新井の評価は大学卒でドラフト6位。高卒ドラフト1位だった雄平との評価の差、という意味では、出発点に戻ったに過ぎない。もともと失うものは何もなかった若き日の境遇を今一度思い起こし、奮起してもらいたい。