筆者は毎年、神宮球場で行われるオープン戦に通っている。プロ野球が待ちきれずに足が向いてしまうのはもちろんだが、オープン戦ならではの楽しみがあるからだ。
オープン戦の多くは平日の昼間に開催される。天気がよくて、風がなければ、気持ちよく観戦できる。また平日の昼間とあって、ナイトゲームや休日に比べ、観客が圧倒的に少なく、スタンドには空席が目立つ。
それだけに、好きなポジションを吟味しながら観戦することができるのだ。神宮球場の場合は内野席全域が自由席となっており、移動も自由だ。
そして、特に野球オタクにお勧めしたい点は、「野球の音」がよく聞こえること。シーズン中の球場は応援団の鳴り物、観衆のざわめきなどで静寂とは無縁の空間となる。しかし、オープン戦では、真芯でボールをとらえたバットの音、キャッチャーミットに投球が吸い込まれたときの快音。選手間の声掛け。こういった「スケルトンのプロ野球の音」を聞くことができるのだ。
野球オタクにとってたまらないもう一つのお楽しみポイントは、この時期にしか見ることのできない選手たちに出会えることだ。
それは、毎年いるオープン戦は絶好調だったのにシーズンに入ったら「別人のようになる選手」たちだ。こういうケースは必ず起きるので、開幕して軌道に乗るまでは、掘り出しものだと思った選手の名を、野球仲間に吹聴することは自重したい。
一方で、オープン戦で頭角を現し、シーズンでさらなる急成長を遂げる選手も目撃できる。となると、いざチームの主力となった暁には「俺はオープン戦から目をつけていた」と吹聴すればよいのだ。
それは助っ人外国人についても同様。レギュラーを確保すべくオープン戦で気を吐く助っ人が毎年たくさん現れるが、残念ながら「そういえば、あの助っ人どうしたっけ?」となるパターンも多い。答えは開幕してからわかることだが、日本で一旗揚げようと気迫に満ちたプレーを見せる助っ人に出会えるのもオープン戦の醍醐味だ。
生ビールを飲みながら観戦するにはちょっと気が引ける肌寒い季節だが、「あのスタジアムの空気」に飢えている野球オタクとしては、仕事の都合をつけてでも足を運びたい。
文=元井靖行(もとい・やすゆき)