まずはエース・岸潤一郎の粘り強いピッチングに触れないわけにはいかないだろう。最速は143キロながら15回にも140キロをマークするなど終始伸びを失わなかったストレート。カットボール、ツーシーム、フォーク、チェンジアップ、カーブに新球の120キロ台スライダーも満遍なく四隅に決まっていた。
課題だったランナーを背負った時の制球力。しかし、1打席目に先制打を許した大石海斗と対した6回2死満塁の場面。外角低め137キロでセカンドゴロに仕留めた場面に象徴されるように学習能力の高さが光る。
「ストレートが高めに浮いた。昨年夏の日大山形戦と同じ」と本人は12回・山本龍河に食らった一発を反省材料としてあげたが、ここは初球から振り抜いた相手を誉めるべき。ゲームメイキングの高さは早稲田実業時代の斎藤佑樹(現日本ハム)をほうふつとさせる。この年代高校生投手としてはやはりトップレベルだろう。
正直、選手個々の姿が見えないまま終わってしまった印象が強い。「残念」の一語に尽きる。4番起用が濃厚だった福原健太右翼手は「インフルエンザの疑い」で甲子園でのプレーすら叶わず。チームの生命線である左腕・神野靖大と越智樹のバッテリーも序盤にコミュニケーション不足から痛打を次々と浴びることに。
神野が「あごが上がっている」とボールが高めに浮いていた要因を自ら突き止め、後半に安定感を取り戻したことは夏に向けての好材料と言えなくもないが、最も神野を近くで見ているはずの越智樹が指摘・修正できなかったことは、ゲームを司る者として大いに反省してほしい。
明るい材料は杉内洸貴三塁手。立花中3年時にKボール愛媛県選抜メンバーとして4番・秋川優史一塁手とともに第7回15U全国KB野球秋季大会ベスト4入り。その後、15U日本代表に選出され、15Uアジア選手権でも中心選手として活躍した杉内は、2安打と1得点につながるスキのない走塁で、大舞台での対応力の高さを満天下に披露した。
低く、伸びていく二塁送球が魅力の、もっと評価されていい強肩捕手・?橋佑八。「下から上へ」のメカニズムが体に染み付いた、スムーズでリズミカルなスローイングは大きな武器。外野からのバックホームが難しいバウンドになってもガッチリ捕球、クロスプレーでタッチアウトに。地味ながらいい仕事をする職人肌の捕手として、大学以上のレベルでも十分期待できる。また、打順は8番だったが、高校通算20弾近い強打者でもある。ややガニ股でドンと構え、懐に呼び込んで遠くへ飛ばす力がある。
横浜高を相手に完勝した八戸学院光星高。その1番打者・北條裕之は、北條史也(阪神)を兄に持ち、フルスイングが魅力の強打者。いつも第1打席、初球でのフルスイングにこだわりを持っているが、この日は横浜高・伊藤将司が初球にクイックモーションで投げ込む奇手を見せ、消化不良のショートゴロに。しかし、出鼻をくじかれながらも次打席では内角のストレートを振り切り、三塁線を破る二塁打。らしいスイングを見せた。
しかし、「ドラフト候補」として見た時に、どうしても厳しい評価になりそうだ。この日のポジションは本来の遊撃手でなく三塁手。守備に定評のある2年生の足立悠哉に明け渡す格好になった。さらにプレーでのパワー、スピードを生み出す体内のエンジンという点から見ても、昨秋からの上積みが見られなかった。
ただ、目を見張ったのが三塁前のゴロを猛ダッシュしてジャンピングスローしたプレー。普通に捕って投げても十分アウトにできただろうが、「自分を見てくれ!」という叫びを感じた。この野心こそ北條の最も大きな武器。強烈な自己主張で高い扉をこじ開けてほしい。
北條裕之に勝るとも劣らない有望選手がひしめく八戸学院光星高。軸足にしっかり体重を乗せて思い切り良く振り抜く3番・森山大樹、レフトスタンドに叩き込むパンチ力をアピールした4番・深江大晟、5打席すべて芯でとらえラインドライブの強烈な打球を飛ばした5番・蔡鉦宇のクリーンアップ。さらに長身の6番打者・新井勝徳は長いリーチを生かした低めへの無類の強さを発揮した。そして投手では先発した2年生左腕・呉屋開斗は出色な制球力と130キロ前後のキレのあるストレートで好投し、リリーフした中川優も2年生とは思えないマウンドでの貫禄と、強打者に対する勝負強さを見せた。
1回戦は好投手・柳川健大をきっちり打ち崩した神村学園高を完封した石原丈路。細かいレビューは前回の記事を参考にしていただきたい。この試合では思った以上に、芯の強さがある投手だと感じられた。ミート力にパワーもある山本卓弥から2三振。そして、センターフライの場面も「とらえられたか!?」というインパクトの瞬間だったものの、思った以上に伸びなかった。試合後の田所孝二監督のコメントで判明したことだが、完封したいオーラ、目線を出していた「投手らしさ」も買いたい。
初戦・都小山台高戦では先発・溝田悠人があわやノーヒットノーランの快投を見せたため、出番がなかった最速147キロ右腕・永谷暢章。駒大苫小牧高戦では溝田が6点を失った3回途中から登板。投げたくてウズウズしたかったのが、マウンドでの猛烈な腕の振りからはっきりと見えた。初球にいきなり144キロを投げ込むと、5回には自身最速タイの147キロをマークするなど三者連続三振。結局、6回1/3を投げて、1安打10奪三振の快投で、チームの逆転サヨナラ勝ちを呼び込んだ。
ブルペンで見ていた印象通り、やはり威圧感とストレートのスピード・球威で押し込める馬力型。時折決まった低めのストレートには角度も感じた。そして終盤、甲子園マウンドに慣れてくると、スライダーでも空振りを奪えるように。ただ、やはりブルペンでもそうだったように、ボールが総じてベルト付近の高さに集まっていた。いずれスピードに慣れられた時にどうするか。変化球を磨くのか、ストレートの質をさらに磨くのか……。いずれにせよ、この日の快投で来年のドラフトを騒がせる一人として大きくアピールしたことは確かだ。