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「31番」が、関西地方のスポーツ新聞各紙の一面を飾っている。
先日、来季の阪神2軍監督就任が決定した掛布雅之。彼の名前が一面記事で取り上げられたのは、何年ぶりのことだろうか。
1973年の秋、掛布は習志野高校からドラフト6位で阪神に入団。1年目のオープン戦でみせた4打数4安打の固め打ちがきっかけで、スター街道を駆け上がった。この時のスポーツ新聞の一面を、筆者は今でもよく覚えている。
当時、阪神のショートには、不動のレギュラーだった藤田平がいたため、サードのポジションをドラフト1位の佐野仙好と争い、掛布はその座を2年目で奪うことになる。
1年目から人気選手だった掛布には、タニマチと呼ばれるスポンサーが常に周りを囲み、新地、銀座と連れまわされたようだ。
しかし、当時甲子園の近くにあった独身寮「虎風荘」にいた掛布は、新地で浴びるほど飲んでいても、必ず屋上で素振りをしてから寝床についたと聞く。
文字通り野球に明け暮れた若手時代。こうした日々の努力もあって、甲子園のライトからレフトに吹く浜風を味方につけて、レフトスタンドへ本塁打を量産。決して大柄でない体格ながら、生涯で3回も本塁打王のタイトルに輝いた。
引退後、野球を離れた掛布は、一時はテレビのバラエティ番組でも人気を誇っていた。しかし、数々の事業経営に失敗。個人事務所「掛布企画」の事実上の倒産などもあり、野球解説の口さえもかからなくなる不遇の時代を迎える。
そんな折、掛布とは千葉の同郷であった当時の阪神タイガースGMの故・中村勝広氏から、GM付き育成＆打撃コーディネーターの誘いを受ける。掛布にとっては、将来阪神のユニフォームを着る、またとないチャンスが訪れたのだ。
今回の2軍監督就任も、この功績が認められて、金本新監督からも「野球観が合う」とオファーをもらうことにつながった。
2軍監督就任を引き受けた掛布の背番号は現役時代と同じ「31番」に決まった。しかし、今回の「31番」は、ずっしりと人生の重みを蓄えたものになる。
2軍監督として教える立場になる掛布は、自らの現役時代と重ね合わせて、若手選手には徹底的に野球に打ち込むよう指導することだろう。
掛布にとって、野球小僧として無我夢中になって野球に明け暮れた若手時代こそが、掛布の原点だ。そして「31番」を背にした掛布は、選手とともに泥にまみれている時が一番輝くはずだ。
「掛布坊や」と呼ばれた18歳の野球小僧が、いまはもう還暦を迎え、人生の再スタートを切ろうとしている。
掛布の第2の野球人生は、今スタートしたばかりだ。
文＝まろ麻呂
企業コンサルタントに携わった経験を活かし、子供のころから愛してやまない野球を、鋭い視点と深い洞察力で見つめる。「野球をよりわかりやすく、より面白く観るには！」をモットーに、日々書き綴っている。
