10月25日のドラフト会議まで1カ月を切った。プロ野球はペナントレースの終盤戦だが、徐々にスポーツメディアでもドラフト情報が増えてきた。週刊野球太郎では毎年恒例の人気企画「ドラフト候補怪物図鑑」を今年も掲載。注目のドラ1候補を徹底解剖していく。第1回は根尾昂(大阪桐蔭)だ。
中学時代には野球とスキーの二刀流で注目された根尾は、野球一本に絞り、大阪桐蔭に入学。今度は野球で投手と野手という二刀流を継続した。甲子園では2季連続センバツ優勝、春夏連覇と結果を出し、侍ジャパンU-18代表でも中心選手としてチームを引っ張ったのは、さすがの一言につきる。
その根尾の強みは対応力だ。投手、遊撃手そして外野手としてもプレーできるのは一流のセンスの持ち主の証。獲得を目指す球団によって起用法の青写真は異なるだろうが、様々な将来を描けるのは大きなアドバンテージだ。
U-18アジア選手権では、これまでに多くの高校生打者が苦しんできた木製バットで打率.389(18打数7安打)、1本塁打を記録。また右翼手としてレーザービームを披露。投手としては自己最速の150キロをマークした。このように守備位置に限らず、プレーで同世代随一の対応力を示した。
もちろん現時点ではプロの球を打てる保証はなく、プロレベルの守備ができるとも限らない。しかし、しっかりと結果を残したことは評価に値する。プロでも各ポジションで可能性が膨らむポテンシャルを見せた。
根尾は身長177センチ78キロと野球選手としては決して大柄ではない。二刀流の先輩にあたる大谷翔平(エンゼルス)はプロ入り当時193センチ86キロ。比べるとサイズは圧倒的に小さい。
しかし、サイズを補ってあまりあるバネがあり、遊撃手としてのプレーは軽やかで抜群のセンスを感じさせる。今夏の甲子園でも作新学院戦でセンター前に抜けようかという打球を捕球すると、回転しながら一塁へ華麗な送球を見せた。
また、沖学園戦で放ったバックスクリーンへの一発は、体全体を使い重心も安定していた。足腰、そして体全体の強さがあるからこそ、金属バットとはいえ、決して大柄ではない体であれだけの飛距離が出るのだろう。
さらに言うと、投手としても150キロを超えるストレートを投げ込めるのは、これだけの強い体があるからに他ならない。
ドラフトで上位指名されることが確実な根尾だが、現時点で各球団の方針はわからない。根尾自身もU-18アジア選手権後に「遊撃手に絞ったこともない」とコメントしており、本人も今の段階でポジションを決めているわけではない。投打にわたっての活躍をしてきただけに、簡単に絞ることは難しい。
根尾同様に抜群の身体能力があり、高卒でプロ入りした投手、かつ小柄な選手では桑田真澄(PL学園→元巨人ほか)がいる。プロ入りにあたって、桑田には遊撃手としてのコンバートも話題に挙がったが、投手として現役をまっとうした。右ヒジの故障もあり200勝には届かなかったものの、通算173勝と一流の成績を残している。
一方で小柄な高卒投手ながら野手として成功した選手では、今シーズン限りでの現役引退を発表した松井稼頭央(PL学園→西武)が挙げられる。松井は投手としてプロ入りしたものの、すぐさま野手に転向。身体能力の高さを生かして球界一の遊撃手となり、トリプルスリーも達成。メジャーリーグにも挑戦するなど、輝かしい成績を残している。
桑田、松井ともに170センチ台半ばの身長ながら抜群の身体能力を武器に、進むべき道を見定めて一流の成績を収めてきたのだ。
根尾が投手専念であれば桑田、野手に専念するのであれば松井のような成長曲線が理想型となりそうだ。
投手、野手どちらにも専念せず、大谷のように二刀流でプレーを続ける可能性もある。その場合、少しでも成績が落ち込めば、ファンやOBなどから厳しい声が寄せられるのも事実。投打どちらにも対応できる身体的強さ、そして外野の声に負けない強靱な精神力、どちらも必要不可欠となってくる。ただ、プレッシャーのなかで、大阪桐蔭の精神的支柱として甲子園春夏連覇を達成した精神力の強さは折り紙つきだ。
大谷の登場によって二刀流への理解は高まっているが、まだまだ一般的ではない。しかし、根尾が二刀流として一流の成績を残すことができれば、一気に後進への二刀流の道が拓けることだろう。
桑田や松井のように絞っていくのか、それとも大谷のように二刀流を極めていくのか。ドラフト前ではあるが根尾の将来が楽しみだ。
文=勝田聡(かつた・さとし)