【パ・リーグサイドから見た日本シリーズ】
先週、このコーナーでポイントに挙げた第3戦。ソフトバンクが5−1で勝利した、この試合の大隣憲司の投球が、後のソフトバンク投手陣に大きな影響を与えた。制球力のある大隣は、阪神打線に対して内角を大胆にえぐる。これが通用することがわかり、配球的に大きなヒントとなって、その後の阪神打線を抑えることができた。
いったい誰が、こんなゲームセットを予想できただろうか。第5戦の最終回、守備妨害でアウトが宣告された瞬間、ソフトバンクの3年ぶり6度目の日本一が決定した。
この奇妙な幕切れを演出したのが、ソフトバンクの守護神・サファテだ。第2戦から4試合連続登板となった鉄腕クローザーの調子は、明らかに悪かった。この回、先頭打者の上本博紀に四球を与え、続く鳥谷敬は三振に抑えたものの、ゴメス、福留孝介に連続四球。レギュラーシーズンから、CS、そして日本シリーズと投げ続けてきたサファテも、さすがに疲労は隠せなかったのだろう。1死満塁、一打逆転のピンチを作り、迎えた西岡剛にも3ボール1ストライクとしてしまった。絶体絶命……しかし、サファテの投じた24球目は一塁ゴロで本塁封殺後、一塁送球時に西岡の守備妨害がコールされ、辛くも逃げ切った。ソフトバンク、サファテにとっては、なんと幸運なプレーだろうか。
シーズン中も「とにかく自分は投げろと言われたところで投げるだけ」と繰り返していたサファテは、このシリーズは4試合で1勝2セーブ。優秀選手に選ばれた。日本シリーズ史上、後にも先にもあり得ない意外なフィナーレは、馬車馬のように投げまくった鉄腕に、野球の神様がくれたサプライズなのかもしれない。
3勝1敗、ソフトバンクが日本一に王手をかけて臨んだ第5戦。追いつめられた阪神打線は、不調だった西岡剛を6番に下げ、1番・マートンという新布陣で臨んだ。しかし、ソフトバンクの先発・攝津正をなかなか捉えきれず、6回を0点に抑え込まれる。その後も、森唯斗、五十嵐亮太というソフトバンクの投手リレーを打ち込めず、遂に0−1とリードを許したまま、最終回の攻撃を迎えた。
8回の攻撃で、五十嵐に完全に抑え込まれていたので、阪神としては五十嵐続投の方が嫌だったかもしれない。だが、ソフトバンクベンチが選んだのは守護神・サファテ。シーズン同様、五十嵐→サファテの投手リレーを守るいつも通りの野球を展開した。ところが、この日のサファテは明らかにいつもとは違っていた。
先頭の2番・上本博紀に対してストレートの四球。しかも明らかなボール球ばかり。続く3番・鳥谷敬に対してはフォークボールを3球続けて三振を奪ったが、4番・ゴメスに対しては、またしてもストレートの四球。しかも、この間、5回も一塁に牽制球を投げるなど、明らかに平常心ではなかった。これが「日本一」のプレッッシャーか。慌てて、ソフトバンクベンチから郭泰源コーチがマウンドに向かう。
続く5番・福留孝介に対しても3ボール2ストライクからファウルで粘られ、結局四球。自ら与えた3つの四球で1死満塁という大ピンチを迎えてしまったのだ。逆に阪神からすれば、一打逆転勝ち越し、という絶好のチャンスを迎える。そして、この場面で打席が回ったのが、6番で起用された西岡だった。
明らかに動揺した表情を見せるサファテ。実際、西岡に対しても2球続けてボール球を投げ、次の3球目も明らかに高く浮いてしまう。ところが、西岡はこの球を打ちにいった。結果的にはファウルになったが、振り返ってみれば、この明らかなボール球に手を出し、3ボールノーストライクという状況にしなかったことこそ、阪神の、そして西岡の敗因だったのではないだろうか。このイニング、サファテが投げた22球目である。
案の定、次の4球目もボール球で、これで3ボール1ストライク。「たられば」になってしまうが、3球目のボール球を見逃していれば、これで押し出しになっていたのだ。
しかし、歴史はソフトバンクの勝利を選んだ。3ボール1ストライクからの5球目、サファテのこの日24球目を西岡が強振すると、打球は一塁手正面へ。その後の展開はご存じの通りだ。
試合後、西岡は自身のFacebookを通じて、あの走塁について釈明をしたことが話題になっている。だが走塁を悔やむよりは、ボール球に手を出し、サファテに一息つかせたことを悔やまなければならない。ベテランの風格を漂わせているが、西岡もまだ30歳。この悔しい経験を糧に来季以降の更なる奮起を期待したい。
■ライター・プロフィール
(セ・リーグ担当)オグマナオト/1977年生まれ、福島県出身。広告会社勤務の後、フリーライターに転身。「エキレビ!」では野球関連本やスポーツ漫画の書評などスポーツネタを中心に執筆中。『木田優夫のプロ野球選手迷鑑』(新紀元社)では構成を、『漫画・うんちくプロ野球』(メディアファクトリー新書)では監修とコラム執筆を担当している。Twitterアカウントは@oguman1977
(パ・リーグ担当)鈴木雷人(すずき・らいと)/会社勤めの傍ら、大好きな野球を中心とした雑食系物書きとして活動中。自他共に認める「太鼓持ちライター」であり、千葉ロッテファンでもある。Twitterアカウントは@suzukiwrite