昨年のドラフトの結果を眺めながら谷上氏は、「3年の夏か……」と思ったという。
それは山崎颯一郎(敦賀気比→オリックス6位)、高山優希(大阪桐蔭→日本ハム5位)ら、甲子園出場を逃した有力投手が軒並み下位での指名という結果に終わったからだ。そして、「3年の夏」にドラフト結果を左右された投手のなかには、高田萌生も含まれた。
ただ、昨夏の地方大会の登板初戦で敗れた山崎や高山と違い、高田は春夏連続で甲子園出場をつかみ、結果を残したかに見えた。しかし、夏の甲子園の初戦で盛岡大付の強力打線につかまり10失点でノックアウト。このときの投球が指名順に影響を及ぼしたのは明白だった。
また谷上氏は、夏のKO以外にも「プロのスカウトが高田に物足りなさを抱くのには、2つの理由がある」と下位指名となった原因を推理する。
1つは身長が低いこと、もう1つは球質の問題だ。
しかし、高田の才能に惚れ込む谷上氏は、スカウトたちと話をするなかで、彼らが「高田の物足りなさ」を口にするたびに、高田を現状だけで評価すべきではないと伝えてきた。
身長の問題は、高田が憧れ、フォームを参考にしてきた松坂大輔(ソフトバンク)の高校3年時の体型と同じであるし、球質については探究心の強い高田本人も自覚し、改善に向けて努力していると。
「高田の力はこんなもんじゃない!」というわけだ。しかし、高田の指名順位を見ると、谷上氏の見立ては、その時点ではスカウトの評価を覆すまでには至らなかったのかもしれない。これからの成長ぶりは別として……。
プロは球速だけでは勝負できない世界であり、高田の球質はまだプロのレベルにないことは、当然谷上氏も理解している。しかし、高田は昨年、「高校生最速」の154キロを投げる力があるのだから、「その力をもっと素直に評価しても……」とヤキモキし続けた。
そんな状況での巨人からの5位指名。ドラフト直後、谷上氏は創志学園の長澤宏行監督にお祝いのメールをした。すると長澤監督からの返信の最後には、「160キロを目指す」という言葉があった。まるで、負けん気の強い高田自身の決意表明を代弁しているように映ったという。
また長澤監督は、谷上氏が行った本誌『野球太郎』での取材で、「指名順には何位でもいい。入ってからが勝負」と、高田の才能と努力できる資質を信じるひと言も述べている。
現状の高田の持ち玉はストレートとスライダー。リリーフでの起用になるのか、「後半の強さ」を生かした先発になるのか。
いずれにせよ、「まずはファームで鍛えて、数年後に鮮やかな活躍をしてほしい」と谷上氏は願っている。そして、高田が活躍することで「身長による先入観や高3の結果に左右されすぎる近年のドラフトの風潮を打開してほしい」と期待を込めている。
(※本稿は『野球太郎No.021』に掲載された「28選手の野球人生ドキュメント 野球太郎ストーリーズ」から、ライター・谷上史朗氏が執筆した記事をリライト、転載したものです。『野球太郎No.021』の記事もぜひ、ご覧ください)
文=森田真悟(もりた・しんご)