昨オフ、岸孝之がFAで楽天に移籍したことで、西武の先発陣の台所事情が苦しくなると思われていた。しかしフタを開けてみれば、主な先発投手が軒並み貯金を作るという嬉しい誤算が起こった。
1997年の清原和博(FAで巨人へ移籍)しかり、2007年の和田一浩(FAで中日へ移籍)しかり、西武は過去にも「主力選手が退団した翌年のシーズンで結果を出す」という底力を発揮することがあるので、そのDNAは生きていたということだろう。
開幕前はローテーションの中核を担う菊池雄星とウルフ以外、ほぼ横一線というメンバー構成だったが、まず十亀剣と野上亮磨が続いた。また、多和田真三郎もプロの水に慣れ、ようやく「18」という背番号に似合う投球をするようになった。かつての投手王国……にはまだ及ばないが、岸の穴は徐々に埋まってきている。
その上で、筆者は「先発第6の男」に名乗り出た岡本洋介の存在が大きいと感じる。今季は10度の先発で6勝1敗。作った貯金5はウルフと並んでチーム2位タイだ。
開幕当初の岡本はスポット的に登板し、中継ぎとしてマウンドに上がることもあったため、本格的にローテーションに加わったのは7月末からだった。
その時期の西武は7週連続6連戦という地獄の試合日程がスタートしたタイミングだったため、ここで先発の6人がカチッと決まったのはチームにとってありがたかったはず。
もちろんチームとしても連戦の対策は練っていたはずだが、今となってはラッキーボーイ・岡本なくして13連勝という快進撃もなかったのでは、という思えてくる。
こうして先発ローテーションの整備ができた西武だが、それ以上にうまくことが運んだのがブルペンの強化だろう。
かつては潮崎哲也、杉山賢人、鹿取義隆で形成したサンフレッチェ。森慎二、豊田清のストッパーコンビと、強力なリリーフ投手が試合を締めてきた。
しかし、その後の中継ぎ投手といえば、「出てきては打たれる」の繰り返しで、他球団のファンから嘲笑の対象にされるほどのレベルだった……。
今季も開幕当初は「昨季に確立したクローザー・増田達至へ、どのようにバトンを渡すか」が課題だったが、新加入のシュリッターが問題をあっという間に解決。牧田和久や武隈祥太とともに強力な勝利の方程式を築き上げ、暗澹たる時代を忘れさせる勢いで勝利に貢献している。
ただ、これだけだと助っ人獲得に成功しただけと片づけられてしまうが、ルーキー右腕・平井克典が34試合の登板で1.70という好成績を記録すれば、2年目の左腕・野田昇吾も29試合を投げて防御率2.10と、次世代も育ってきている。
未来への種まきもできているという点で、今季のブルペンはひと味もふた味も違う。自転車操業だったころの姿は、もうない。
それからもうひとつ、今年の6月25日に亡くなった森慎二投手コーチにも触れておきたい。2015年から2軍の投手コーチを務めた森コーチは、昨季途中からは1軍の投手コーチに配置転換され、現役時代よろしくブルペンを任された。
その森コーチが1軍にいた時期をあらためて検証すると、西武のブルペン陣が立て直されていく時期と重なる。シュリッターの加入もさることながら、救援陣が今季の開幕からいい状態でフル稼働できたのは、森コーチの指導力が大きく底支えしていたはずだ。
森コーチの後は西口文也コーチが継いだが、継投策が破綻していないところを見ると、もうかつてのような投壊現象は起こらないはず。
かつての強い西武を支えた名リリーバーが、天国に旅立つ前に古巣のブルペンを立て直す。マンガでも描けないようなドラマが起こったからこそ、今季の中継ぎ陣は森コーチの意思を胸に、チームの勝利を支える立場であり続けられる。
野手編、そして投手編と2回に渡って辻発彦・西武の強さを分析したが、いかがだっただろうか。
特にここ最近の試合を見ていて思うことは打線に関することが多く、メヒアが不調に陥りながらも、ドラフト組だけでこれだけの強力打線が作れるのか……と悦に入っている。
ちなみに現在のチーム勝率.569は日本一になった2008年を含めたここ10年のなかでも最高。今季はその上をいく他チームがあるものの、栄光への戦力が整ってきたことは数字も証明している。
今や3年ぶりのCSが目前だが、まだペナントレースも終わっていない。首位のソフトバンクから2ケタのゲーム差をつけられてはいるが、なんとかなるんじゃないか。そんな気持ちにさせてくれる魅力が、今の西武にはある。
(成績は9月8日現在)
文=森田真悟(もりた・しんご)