4月29日から5月1日にかけて、中日に3連勝し首位へと浮上した広島。チーム打率.283、32本塁打、165得点はいずれも12球団トップと打線が好調だ。田中広輔、菊池涼介、丸佳浩と上位打線に、2000安打を達成した新井貴浩や昨年はケガに苦しんだブラッド・エルドレッドがリーグ最多の10本塁打を記録するなど、圧倒的な破壊力を誇る。そのなかで、ブレイクを果たそうとしている選手と、再び這い上がろうとしている選手がいる―――。
2012年ドラフト2位で広島に入団した鈴木誠也。二松学舎大付高時代は、1年秋からエースだったが、プロ入り後は打撃を生かすため野手に転向した。ルーキーイヤーから2軍で積極的に起用され、シーズン終盤には1軍デビューも果たした。
2014年も2軍で腕を磨く時期が続き、9月25日のヤクルト戦で待望のプロ初本塁打を初回先頭打者で飾る。
プロ3年目の昨年は開幕戦に1番ライトでスタメン出場。一気にレギュラー獲得かと思われたが、97試合の出場に留まり打率.275、5本塁打に終わった。
勝負の4年目となった今季はキャンプ終盤に右足太ももを痛め離脱。開幕も2軍スタートとなった。4月5日に1軍登録されると即スタメン出場。4月26日のヤクルト戦ではソロと満塁の2本の本塁打を放った。5月3日現在、打率.269、17打点。18安打のうち二塁打6本、三塁打2本、3本塁打と長打が半分以上を占めている。
昨年、ある取材で鈴木は新井貴浩と出会ったことで打撃への取り組み方が変わったと、次のような話をしてくれた。
「たとえばティーバッティングなら、ふつうはいろいろ形にこだわるんですけど、新井さんはとにかく全部フルスイング。新井さんは『軽く振るなら自分が思うようなスイングは簡単にできる。でも、試合の中で思い切り振ればその形は崩れることもある。だから、俺は練習からその状況を作っているんだよ』と言っていて、なるほどと思いました。そこからは自分の修正点を見つけやすくなりました」
けれんみのないスイングはどこか新井と重なる部分もあるが、鈴木には新井にはない俊足という武器もある。それに加え、元投手ということもあり肩も強い。強肩で知られる野間峻祥が「鈴木の肩は別格。僕とは比べものにならない」というほどの強肩だ。
足のケガが多いのは不安だが、近い将来日本を代表する外野手になる可能性も十分ある。鈴木の本領発揮は、まだまだこれからだ。
2009年夏の甲子園。エースで4番として中京大中京高を全国制覇に導いた堂林翔太。その年のドラフト2位で広島に入団し、最初の2年間は2軍で力を蓄えた。3年目の2012年に開幕を1軍で迎えると全144試合に出場。打率.242、広島のシーズン最多記録となる150三振を喫したが14本塁打と長打力を発揮した。甘いマスクもあり、人気は急上昇。近年話題のカープ女子ブームのきっかけを作ったのは間違いなく堂林だ。
このまま広島の主軸になるかと思われたが、2013年は105試合で打率.217、6本塁打。2014年は93試合で打率.246、8本塁打。昨年は33試合の出場で打率.261、本塁打は1本も打てなかった。ケガに悩まされることも多く、このまま終わってしまうのかと不安に思ったファンも多いだろう。それに加え、今季は三塁のポジションが重なるエクトル・ルナが中日から加入。堂林は崖っぷちに立たされた。
開幕は2軍で迎えたが、ルナの離脱を受けて4月17日に1軍登録。 4月19日のDeNA戦では石田健大から2年ぶりの本塁打を放った。26日のヤクルト戦では、エルドレッド、鈴木に続いて、チームでは11年ぶりとなる三者連続本塁打を記録した。
ここまで11試合の出場で打率.280、2本塁打。まだ打数が少ないが、昨年までの不振から抜け出した感はある。以前、取材した際には「考えすぎてしまう性格だから、そうならないようにしている」と言っていた。今季はチームが好調ということもあってか、打席での堂林に重苦しさはあまり感じない。ようやく吹っ切れた感がある。
スターの階段を一気に駆け上がり、その後一気に落ちた経験は無駄ではないはず。ルナが復帰するとき、首脳陣が起用法悩むほどのパフォーマンスを見せてほしい。今度こそ、真のブレイクスルーを果たすときだ。
文=京都純典(みやこ・すみのり)
1977年、愛知県出身。出版社を経て独立。主に野球のデータに関する取材・執筆を進めている。『アマチュア野球』(日刊スポーツ出版社)、『野球太郎』(廣済堂)などに寄稿。1軍はもちろん、2軍の成績もチェックし、分析している。