このチェンジアップは、金子千尋(オリックス)からヒントを得たという。
金子自身の考え方はこうだ。全ての変化球は、同じフォームから放たれ、同じ軌道を通って、ある一点から上下左右に変化していくことが理想。これは若松のチェンジアップの特徴に通じる。そして、前回取り上げた菅野の考え方にも共通するものがあった。
変化球は単に大きく曲がればいいわけではない。他の球種と見分けがつかないようにして幻惑させるのが、打者を抑えるコツともなるのだ。
若松にはマウンドに上がる前に行う儀式がある。帽子のツバの裏をみるのだ。
そこには、甲子園出場もない自分に目をかけ、プロの世界に引き入れてくれた故・渡辺麿史スカウトの名前が書いてある。その恩人に対して、勝つことこそが最高の恩返し。渡辺スカウトは「プロ入り後3年で出てくる」と周囲に語っていたという。その予言通り、若松は結果を出した。天国の渡辺スカウトも喜んでいることだろう。
開幕当初はビシエド効果で好調だった中日。しかし現在、混セの2位争いから抜け出せず、首位・広島に大きく水を開けられている。下手をしたら4年連続Bクラスで終える可能性もある。
中日は球団設立以来、4年連続Bクラスだったことはない。不名誉な記録を阻止するために、後半戦も伝家の宝刀・チェンジアップで打者を手玉にとる若松に期待したい。
文=勝田 聡(かつた さとし)
松坂世代のひとつ上にあたりサッカーの黄金世代となる1979年生まれ東京育ち。プロ野球、MLB、女子プロ野球、独立リーグと幅広く野球を観戦。 様々な野球を年間約50試合現地観戦し写真を撮影する。プロ野球12球団のファンクラブ全てに入会してみたり、発売されている選手名鑑を全て購入してみたりと幅広く活動中。