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ヤクルト版「七夕の悲劇」を超え14連敗を止めた夜。ヤクルトファンの「あたたかさ」を実感した

ヤクルト版「七夕の悲劇」を超え14連敗を止めた夜。ヤクルトファンの「あたたかさ」を実感した

 リーグ優勝を決めた2015年10月2日を思い出した、というのは少し大げさだろうか。7月22日に神宮球場で行われたヤクルト対阪神の一戦のことだ。ヤクルトはこの試合を、泥沼の14連敗中で迎えていた。

 9回表、ヤクルトは6対2と4点のリード。マウンドには今シーズン、チーム3人目の守護神となる2年目のルーキ。ほかのチームであれば安心といった展開だろう。

 しかし、ヤクルトファンは勝利に対して疑心暗鬼になっている。それは、無理もない。1998年に18連敗を記録した際のロッテが見舞われた「七夕の悲劇」同様、今シーズン、ヤクルトも「七夕の悲劇」に遭遇。その苦い記憶がファンの脳裏にあるからだ。

ヤクルト版「七夕の悲劇」


 7月7日の神宮球場でヤクルト版「七夕の悲劇」は起こった。相手は広島。5連敗中のヤクルトは久々に打線がつながり、9回表の時点で8対3と5点のリードを奪っていた。

 クローザーの秋吉亮が離脱していたこともあり、マウンドには小川泰弘が登る。リリーフに転向後、2試合目の登板。9回のマウンドに立つのは、この日が初めてだった。

 小川は先頭打者のバティスタに本塁打をたたき込まれ、いきなり失点。ただ、このときはまだライトスタンドのヤクルトファンも「まぁ、しょうがない」「ソロならOK」といったふうに楽観的だった。

 続く田中広輔は一塁ゴロ。神宮球場の夜空に「LAST 2」の声がこだまする。1死を取って落ち着いたかに見えた小川だったが、ここで菊池涼介に一発を浴び、2点目を失う。リードはあと3点。「まだ大丈夫」。ヤクルトファンはそう思っていた。

 その後、丸佳浩を四球で出塁させるも、一番怖い男でもある鈴木誠也を打ち取ると「LAST 1」の声が響き、スタンドも落ち着きを取り戻した、この瞬間は……。

 しかしその後、小川は松山竜平に適時二塁打を浴び、西川龍馬も内野安打で出塁させてしまう。ここで、広島の代打の切り札「アライさん」こと新井貴浩がコールされる。

 レフトスタンドから三塁側内野席を通り越して一塁側内野席にまで群がっている広島ファンは、この日一番の大声援。「代打・大松(尚逸)」でヤクルトファンが挙げる声援では、まるで叶わないこの大音量。明らかに声の大きさが違う。役者が違う、とはまさにこういうことなのだろうか。

 その、数十秒後、ゆっくりとダイヤモンドを一周する新井の姿をヤクルトファンは呆然と見つめていた。

 まさかの5点差をひっくり返される大逆転負け。このヤクルト版「七夕の悲劇」の記憶がある限り、何点のリードがあっても、安易に勝てる気がしないだろう。少なくとも今シーズンいっぱいは……。

やはりヤクルトファンはあたたかい


 話は7月22日の阪神戦に戻る。この日の9回は違った。ルーキは1死後に安打を許したものの後続を打ち取りゲームセット。

 最後の打者となった大山悠輔を空振り三振に打ち取るとライトスタンドは大盛り上がり。じつに、神宮球場では6月23日以来、1カ月ぶりの白星。それが喜びに拍車をかけた。

 そして、この日の先発は由規、先制打を放ったのは山田哲人。まさにチームの柱となるべき選手が活躍したことも大きかった。たかが1勝、されど1勝。この1勝が持つ意味は大きい。また明日から頑張ろう、と思わせてくれる勝利だった。

 筆者はこの日のスタンドに身を置きながら、14年ぶりのリーグ優勝を決めた2015年10月2日の盛り上がりを思い出していた。

 7月1日から始まった連敗街道。伸びに伸びたその数字は巨人が作った13連敗を超え14連敗となっていた。しかも、シーズン2度目の10連敗以上でもあった。この14連敗中にはファンがクラブハウスを取り囲むという事件も発生した。

 それでも、ファンは神宮球場に足を運び、声援を送った。打ち込まれた投手がマウンドから降りるときも拍手。大差で負けていても好プレーがあれば拍手……。

 観客動員数の伸び率が12球団トップとなっているヤクルト。ヤクルトファンは、やはりあたたかい。


文=勝田聡(かつたさとし)

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