著者の梅津有希子は日本にひとりしかいない「高校野球ブラバン応援研究家」。高校時代、吹奏楽の強豪校で腕を磨き、吹奏楽の甲子園とも言える普門館で3年連続金賞を受賞。この夏、実写映画化も注目されている「高校野球×吹奏楽部」を描いた人気漫画『青空エール』の監修者でもある。
今年の甲子園大会期間中は、Twitterで「#ブラバン甲子園」のハッシュタグをつけて各校の曲目をライブ解説。「甲子園のテレビ観戦がより楽しくなる!」と話題を集めている。
そんな著者が応援を見るため、演奏を聴くためだけに各球場に足を運び、各吹奏楽部に取材を重ね、「ブラバン応援のこれまでと今」を徹底解剖。
・高校野球のブラバン応援はいつ始まった?
・なぜ高校野球の応援は懐メロが多いのか?
・なぜ応援曲は勝手に曲名が変わるのか?
・吹奏楽部のない学校の応援はどうしているのか?
上記のような吹奏楽・ブラバン応援にまつわる雑学、トリビアが満載の一冊となっている。
たとえば、「高校野球のブラバン応援はいつ始まった?」については、著者がさまざまな文献、過去の新聞を徹底調査。結果として、1915年の第一回大会から音楽隊がいたことが判明。高校野球100年の歩みとともに、応援の歴史、ブラスバンドの歴史が連綿と続いてきたことに驚かされる。
このほか、注目したいのが、今大会の数多くの出場チームについて、その応援スタイルや演奏曲目の特徴について解説している点。いくつか、紹介したい。
近年、高校球界で人気を博す、ロッテの応援歌。なかでもロッテ率が高い学校として知られているのが愛知代表、東邦高校だ。
本書ではロッテ率が高い背景を探るとともに、ロッテの球団広報や応援団員にも取材を敢行。「地元の千葉県の高校でもない東邦があんなにロッテの曲を採用してくれて、うれしいと同時に驚きが大きいです」とはロッテの名物広報、梶原紀章氏の言葉だ。
この夏の東邦といえば、エースで4番の二刀流・藤嶋健人の活躍にばかり注目が集まっているが、期待を裏切ることなくロッテの音色を奏でてくれるか、という点も要チェックだ。
今大会、そのタレントの豊富さから優勝候補にも挙げられている神奈川代表・横浜高校。横浜と甲子園といえば、1998年のPL学園戦、延長17回の死闘を思い浮かべる人はまだまだ多い。本書ではあの伝説の一戦をブラスバンド視点で振り返っているのが面白い。
「横高の応援は、アルプススタンドのすべての観客を巻き込む。全体の一体感がとにかくすごかった。盛り上がりが最高潮に達すると、脅威にすら感じました」とは、PL学園のアルプススタンドで4時間にわたってクラリネットを吹き続けた奏者の言葉。
一方、「場の雰囲気で盛り上がって吹き続けると、唇も体もバテてしまうので、(中略)試合の様子を見ながらリーダーが臨機応変に曲や応援パターンを選ぶ必要がある。リーダーの腕の見せ所です」という横浜高校応援部顧問のコメントも興味深い。
延長に次ぐ延長で倒れる寸前だったのは、選手たちだけではなかったのだ。
1998年大会以降、夏の甲子園では優勝できていない横浜。王者復権のためには、大会注目のエース・藤平尚真の力とともに、間違いなくブラスバンドの応援も必要不可欠のはずだ。
今大会出場校でいえば、ほかにも「明徳義塾のスーパートランぺッター」「“いかつい野郎”率の高い関東一高アルプス」などのエピソードも興味深い。
また、高校野球応援曲として定番中の定番である「天理ファンファーレ」や「チャンス紅陵」「ジョックロック」はもちろん、早稲田の「コンバットマーチ」や慶應義塾の「ダッシュKEIO」など、野球応援の歴史を語る上は外すことができない定番ナンバーの誕生秘話なども詳細に綴られている。
甲子園大会期間中、手元に置いておきたい一冊として、『高校野球を100倍楽しむ ブラバン甲子園大研究』をぜひ、オススメしたい。
文=オグマナオト