「悲願度」と「現実度」を考えると、一番手には稚内大谷(北北海道)を推したい。
北海道の支部(地区)で唯一、甲子園輩出校がない名寄支部所属で、北北海道大会決勝敗退経験もあり。全国屈指の悲願校だが、2000年代以降は、やや苦しんだ時期もあった。
しかし、最近は復調傾向にあり、昨秋、今春の北海道大会ではベスト4に進出。エース左腕の正岡翔也は最速141キロ。ショートで四番、主将の上川原丈登は控え投手も兼ねており、こちらも完投能力はある。北北海道大会は絶対的な本命不在の混戦模様だけに勝機は十分ある。
一方、優勝候補筆頭ではないが、一部関係者の間でダークホースと見られているのが大分雄城台(大分)。スケールの大きな強打者・梶原昂希に快速の平一隆を中心とした打線は強力。1月に行われた大分県野球部対抗トレーニングマッチでも好成績を挙げるなど選手の身体能力は県トップクラスだ。
公立校ながら長きに渡り県上位の実力をキープ。安藤優也(阪神)も輩出した全国有数の「悲願校」が快進撃を見せるか。期待したい。
「悲願度」ではおよばないものの、「現実度」では稚内大谷を上回るのが明秀学園日立(茨城)。光星学院(現・八戸学院光星)を全国的な強豪に育てた金沢成奉監督が就任して6年目。昨夏は決勝まで進出したが茨城の盟主・常総学院に0対1で惜しくも敗れた。
しかし、今年もまた主砲・若松祐斗、エース・粂直輝を中心に強力チームを整備して、秋春と県大会連覇。昨夏の悔しさも糧にして、いよいよ初の聖地を踏みそうな雰囲気だ。
「悲願」だけではなく、もうひとつの「想い」を込めて戦う悲願校が岡豊(高知)。2000年からチームを率いる山中直人監督は来春3月に定年。つまり、今年が最後の夏になるかもしれないのだ。
山中監督はかつて監督を務めた伊野商で、1985年にエース・渡辺智男(元西武ほか)を擁してセンバツ初出場初優勝。岡豊でも毎年、好チームを育ててきた。「物語」があるチームは、ときに想像以上の力を発揮する。最後になるかもしれない名将の夏、ナインたちの躍動は見られるか?
昨年、清宮幸太郎の早稲田実を準々決勝で破って西東京大会優勝という、最高の形で長い「悲願校」を卒業した八王子(西東京)。それに続けと同じ東京で卒業を狙うのが東海大高輪台(東東京)だ。
20年以上、東東京の有力校に数えられながらいまだ甲子園出場はなし。だが、今夏の東東京は混戦模様。宮路悠良と増子航海という投手2枚看板が揃っているのは大きな強み。東京に「2年連続悲願校卒業」をもたらすことができるか?
ちなみに東海大高輪台は、硬式野球部のある全国の東海大付属校のなかで唯一、甲子園出場がない高校でもある。一気に「W悲願」達成を果たせるか。
そして最後に生光学園(徳島)。ご存じ(?)全国で唯一、私立の甲子園出場校がない徳島県の私学の雄だ。
正直、もう何度も甲子園へ出場してもおかしくない年もあったのだが、伝統校の高い壁に阻まれ続けてきた。徳島は現在、鳴門が夏5連覇と黄金時代を築いているが、そろそろ連覇も苦しくなってくる頃。6連覇の夢を砕いて甲子園出場となると、徳島県史上初の私立代表校に添える花としては十分すぎるストーリーだ。
戦力的にも秋の徳島県大会は制覇するなど、今年もしっかり鍛えられている。春にその鳴門に敗れたことも、いい経験。選手・指導者はもちろん、OBや学校関係者の願いが、今年こそ甲子園まで届いてほしい。
以上、今年、「卒業」を期待したい、期待できる悲願校を紹介してきた。果たして今年は何校が卒業できるのか。その戦いに注目したい。
文=田澤健一郎(たざわ・けんいちろう)